南極の“冷たい空”と突然昇温

お天気講座

今回はちょっぴり気象学の匂いがする話。
日本と南極の空の違いについてです。

気象について少し勉強すると、必ず出てくる“対流圏”と“成層圏”。
普段気象現象が起きるのは地表から10数kmの厚みを持った対流圏で、上空ほど気温が下がってく。
そして対流圏の上には(対流)圏界面を挟んで、上空ほど気温が上がる成層圏。

どんなに発達した積乱雲も、どんなに強い台風も基本的に対流圏の中で起きる現象。
たまにISS(国際宇宙ステーション)から届く台風やハリケーンの写真で“薄っぺらい対流圏”を見ることができます。

圏界面の高さは季節によって変動するけど、基本的な構造は夏も冬も変わらないのが日本の気象。

じゃあ南極ではどうなってる?ってのが今回の本題です。

大気がどんな構造になってるかを直接知ることができるのがラジオゾンデ観測。
大きな風船に測器を着けて放球、高度約30kmまでの気温や湿度、風なんかを計測。
南極でも基本的に1日2回、ちょっとやそっとの強風やブリザードの中でも観測を続けてます。ゾンデ放球をするK隊員

それでは実際に昭和基地の夏のデータを見てます。
縦軸に気圧・高度、横軸に気温(&その他)を書いたグラフ。
一番上まで延びてる黒実線が気温です。

2019/2/15 00UTC、昭和Upperair Air Data@ワイオミング大学より

日本と比べると当然ながら全体的に対流圏の気温が低く、対流が弱いもんだから圏界面も低い。
それでも対流面~圏界面~成層圏って構造はしっかり見えてる。
まあ普通の姿です。

これが冬になると…こうなる。
極夜真っただ中、7月頭の観測データ。
2019/7/1 12UTC、昭和

上空に行くほど気温がどんどん下がり、圏界面を境に気温が上がら・・・ない。
ってか、圏界面はどこ??
もはや違和感しかない大気構造。

なんでこうなるかは、成層圏が暖かい理由にある。

成層圏で重要な仕事をしてるのがオゾン層。
オゾン層が太陽光線に含まれる紫外線を吸収してるってのは誰でも知ってると思うけど、オゾン層では吸収した紫外線のエネルギーを熱に変換してます。
この熱で大気が温まり形成されてるのが成層圏ってわけ。オゾン層とは@気象庁より

ところが、南極の冬には太陽の光が当たらない極夜がある。

そうなると成層圏を加熱する熱源が無くなってしまい成層圏は自然と冷却。
こうして単純に上空ほど冷たい大気構造のできあがり。

さらに南極は地形的にだいたい綺麗な丸い大陸、そして大陸の周囲はぐるっと海。
このため南極上空で形成されたとっても冷たい空気はなかなか混ざることなく、綺麗な低気圧性の渦 “極渦”として鎮座するのが南極の冬の定番です。
この極渦がオゾンホールの形成にも重要な役割を果たしてたりするけど、長くなるんでまた別の機会に。

話を戻してこの極渦。
毎年ドカッと南極大陸の上に居座るのが普通の姿だけど、ごくたまに極渦が乱れて南極上空の成層圏で気温が一気に上がることがある。
これが“成層圏突然昇温”です。

次の図は南極周辺の30hPa面、高度20数kmの気圧配置的なやつ。
去年の今頃は南極大陸の真上にいた極渦(低気圧)が・・・

今年は高気圧に横から押しのけられてる状態。
大気の循環@気象庁より

極渦は冬の北極でも形成されてて、地形的に渦が乱れやすい北極では成層圏突然昇温がちょくちょく起きる。
でも、流れが安定してる南極で起きるのはかなりレアだとか。

そしてどのくらい気温が上がるかというと、2019/8/23には昭和基地上空の10hPa(高度30km弱)で約-75℃だったのに…

1週間後の2019/8/30には同じ10hPaでなんと約-5℃!

最初に観測データからこの現象を見つけた人はそりゃもう困っただろうなとw

いま、南極のはるか上空ではこんな劇的なイベントが起きてる。
それをこうして日々の観測データで目撃してるってのはなかなか貴重な体験。

じゃあなぜこんな現象が起きてるかというと、ここで書くのはちょっとしんどい。

…というか、対流圏ばかり相手にしてるぼくには荷が重すぎ!

気になる人はとりあえず成層圏突然昇温@wikipedia
それでも満足できない人は“成層圏突然昇温”でググってヒットする論文でもご覧ください・・・

昭和基地NOW!!に登場した若者もきっとそのうち昭和基地の観測データの総力を挙げてこの現象を解析してくれるはず。
がんばれー!

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