カテゴリー別アーカイブ: 日々の天気

日々の天気に関する話題を幅広く。ちょっと顔を上げてみれば、まぎれもなく天気は生活の一部です。

南極に咲く花、フロストフラワー

低温、強風、そして乾燥(液体の水がない)。
厳しい環境の昭和基地周辺には木はもちろん、草も生えてない。
緑といえば、雪が融ける短い夏に所々で苔類が見れるくらい。

そんな荒涼とした冬の昭和基地にも、時々咲く花がある。

場所はここ。
昭和基地の水がめ、130kL水槽。

もうちょっと近づいてみる。
何やら白い塊がいっぱいあるような・・・

さらにアップ。

どうでしょ、この綺麗な白い花。

これは“フロストフラワー”。
直訳すると“霜の花”。
一言でいうと、でっかく成長した“霜”です。



氷と水が近い場所にあって、風が弱い状態でよく冷えた寒い日。
水からどんどん蒸発した水蒸気は近くの氷に昇華(凝華)して霜として成長。
このベストな状態が続くと霜はグイグイと成長して手のひらサイズの立派な花、フロストフラワーとして美しい姿を見せてくれる。

130kL水槽は発電機の排熱で雪を溶かして水を作る施設。
寒い冬もだいたい水槽の一部は水、そのほかは凍ってるってなフロストフラワーの成長には絶好の場所。
よく冷えた風の弱い朝には見事な花が咲き乱れてます。
ちなみにこの写真を撮った日の朝はマイナス26℃でした。

暖かいところから冷たいとこへの水蒸気の移動&着霜。
色気のない話を持ち出すと、古いタイプの冷蔵庫で冷凍室の奥にびっしり張り付く霜と仕組みは一緒。

日本国内でも厳冬期の阿寒湖で凍結&温泉湧出による開放水面って条件が揃ってて、気象条件さえよければ見事なフロストフラワーが見れるみたい。

そういえば1月の阿寒湖に遊びに行ったことがあったけど、確かに朝起きたら色んな物に付いた霜がすさまじかった記憶が。
霜とダイヤモンドダストは見たけどフロストフラワーは気にしてなかったな。

阿寒湖のフロストフラワーは見学ツアーもやってるみたいなんで興味のある人はぜひ調べてみてください。
厳冬期の道東、ちょいとハードル高い気もするけど色々寒さを売りにしたイベントもやってるし、オホーツクエリアの流氷観光とセットで回ったりすると最高に面白い。
少なくとも南極よりは行きやすいですw

早朝の阿寒湖氷上散歩でフロストフラワーを見に行こう@北海道Likers
【冬の絶景】阿寒湖・フロストフラワー@北海道ラボ

南極の“冷たい空”と突然昇温

今回はちょっぴり気象学の匂いがする話。
日本と南極の空の違いについてです。

気象について少し勉強すると、必ず出てくる“対流圏”と“成層圏”。
普段気象現象が起きるのは地表から10数kmの厚みを持った対流圏で、上空ほど気温が下がってく。
そして対流圏の上には(対流)圏界面を挟んで、上空ほど気温が上がる成層圏。

どんなに発達した積乱雲も、どんなに強い台風も基本的に対流圏の中で起きる現象。
たまにISS(国際宇宙ステーション)から届く台風やハリケーンの写真で“薄っぺらい対流圏”を見ることができます。

圏界面の高さは季節によって変動するけど、基本的な構造は夏も冬も変わらないのが日本の気象。

じゃあ南極ではどうなってる?ってのが今回の本題です。

大気がどんな構造になってるかを直接知ることができるのがラジオゾンデ観測。
大きな風船に測器を着けて放球、高度約30kmまでの気温や湿度、風なんかを計測。
南極でも基本的に1日2回、ちょっとやそっとの強風やブリザードの中でも観測を続けてます。ゾンデ放球をするK隊員

それでは実際に昭和基地の夏のデータを見てます。
縦軸に気圧・高度、横軸に気温(&その他)を書いたグラフ。
一番上まで延びてる黒実線が気温です。

2019/2/15 00UTC、昭和Upperair Air Data@ワイオミング大学より

日本と比べると当然ながら全体的に対流圏の気温が低く、対流が弱いもんだから圏界面も低い。
それでも対流面~圏界面~成層圏って構造はしっかり見えてる。
まあ普通の姿です。

これが冬になると…こうなる。
極夜真っただ中、7月頭の観測データ。
2019/7/1 12UTC、昭和

上空に行くほど気温がどんどん下がり、圏界面を境に気温が上がら・・・ない。
ってか、圏界面はどこ??
もはや違和感しかない大気構造。

なんでこうなるかは、成層圏が暖かい理由にある。

成層圏で重要な仕事をしてるのがオゾン層。
オゾン層が太陽光線に含まれる紫外線を吸収してるってのは誰でも知ってると思うけど、オゾン層では吸収した紫外線のエネルギーを熱に変換してます。
この熱で大気が温まり形成されてるのが成層圏ってわけ。オゾン層とは@気象庁より

ところが、南極の冬には太陽の光が当たらない極夜がある。

そうなると成層圏を加熱する熱源が無くなってしまい成層圏は自然と冷却。
こうして単純に上空ほど冷たい大気構造のできあがり。

さらに南極は地形的にだいたい綺麗な丸い大陸、そして大陸の周囲はぐるっと海。
このため南極上空で形成されたとっても冷たい空気はなかなか混ざることなく、綺麗な低気圧性の渦 “極渦”として鎮座するのが南極の冬の定番です。
この極渦がオゾンホールの形成にも重要な役割を果たしてたりするけど、長くなるんでまた別の機会に。

話を戻してこの極渦。
毎年ドカッと南極大陸の上に居座るのが普通の姿だけど、ごくたまに極渦が乱れて南極上空の成層圏で気温が一気に上がることがある。
これが“成層圏突然昇温”です。

次の図は南極周辺の30hPa面、高度20数kmの気圧配置的なやつ。
去年の今頃は南極大陸の真上にいた極渦(低気圧)が・・・

今年は高気圧に横から押しのけられてる状態。
大気の循環@気象庁より

極渦は冬の北極でも形成されてて、地形的に渦が乱れやすい北極では成層圏突然昇温がちょくちょく起きる。
でも、流れが安定してる南極で起きるのはかなりレアだとか。

そしてどのくらい気温が上がるかというと、2019/8/23には昭和基地上空の10hPa(高度30km弱)で約-75℃だったのに…

1週間後の2019/8/30には同じ10hPaでなんと約-5℃!

最初に観測データからこの現象を見つけた人はそりゃもう困っただろうなとw

いま、南極のはるか上空ではこんな劇的なイベントが起きてる。
それをこうして日々の観測データで目撃してるってのはなかなか貴重な体験。

じゃあなぜこんな現象が起きてるかというと、ここで書くのはちょっとしんどい。

…というか、対流圏ばかり相手にしてるぼくには荷が重すぎ!

気になる人はとりあえず成層圏突然昇温@wikipedia
それでも満足できない人は“成層圏突然昇温”でググってヒットする論文でもご覧ください・・・

昭和基地NOW!!に登場した若者もきっとそのうち昭和基地の観測データの総力を挙げてこの現象を解析してくれるはず。
がんばれー!

南極の不思議な風、ハイドロリックジャンプ

今朝、薄明の空を眺めると何やら遠くに雪煙。

太陽が出てくるころには雪煙がさらに大きくなって・・・

すっかり明るくなったころには雪煙はより高く。そして広く。
昭和基地から眺めれる南極大陸の縁に沿うように雪煙の壁が延びてきた。

この雪煙は“ハイドロリックジャンプ”って現象。

天気のいい穏やかな日には、南極大陸は内陸部でキンキンに冷えて重くなった空気が斜面を流れ下る“カタバ風”って風が常に吹いてる。

カタバ風は斜面を勢いよく流れ下るけど、斜面が終わる大陸沿岸部で失速。
この風の流れの速度が変わる場所で流れが乱れて大きく跳ね上がることがあって、これが“ハイドロリックジャンプ”。
日本語だと“跳水(ちょうすい)”って現象です。

小さなのは何回か見てたけど、ここまでハッキリしたのを見れたのは初めて。

昭和基地から見ると南極大陸は東側にあって、東風がどんどん吹き寄せてくるのに見事に吹き上がって全く届いてこない。
大陸海岸の4~5km先までは強い東風が吹いてるのに昭和基地はずっと南風でした。

しばらく眺めてたかったけど、今日の気温は-25℃で5m/sの風もセット。
とても外でぼんやり立ってる気分にはならない寒さ。

眺める代わりにタイムラプスを撮ったんでどうぞ(5s間隔×10fps、50倍速)。
大陸から流れ下るカタバ風と、巻き上がるハイドロリックジャンプの様子がよく分かります。

見たいと思ってた自然現象、またひとつゲット!

ハリケーンから台風へ→なりました

前回(ハリケーンから台風へ)取り上げたハリケーンHector。

ついにハリケーンHectorから台風Hectorへ改名して再デビュー(?)したんでその記録を。

ハリケーンHectorから台風Hectorへ改名したってことは、RSMC Honolulu@ハワイからRSMC Tokyoへバトンパスしたってこと。
8月14日3時(日本時間)から東経域に入りRSMC Tokyo管轄の“台風”になりました。

RSMC Honoluluでは“Hurricane”から“Tropical Storm”へ。Hectorの進路予報@Central Pacific Hurricane Centerに加筆

RSMC Tokyoでは“熱帯低気圧”から“台風”へ。台風情報@気象庁より

…これじゃいつもと変わらん!ってことで、8月14日3時のアジア域天気図から台風17号を拡大。

普段の“熱帯低気圧から発達して台風”のパターンとの違いを探してみてください。
こっちは8月13日9時にできた台風16号のとき。

元々TROPICAL STORM(最大風速34ノット以上)だった台風17号と、TD(TROPICAL DEPRESSION、最大風速34ノット未満)から強くなってできた台風16号。
そんな感じです。

しかし、こうした熱帯低気圧ネタを書くときは日本語と英語で微妙にズレがあるからなんとも書きにくい。

最大風速34ノット以上の熱帯低気圧は台風。
でも、最大風速64ノット未満の台風はTYPHOONではない、なんてことになってます…。
アジア太平洋域 実況天気図の説明@気象庁より

ハリケーンから台風へ

ハワイの近くにあって、日本のアジア域天気図にも姿が見えるハリケーンHector。もうある程度話題になってるけど、場所と進路がちょいと気になる状態です。天気図赤外画像@気象庁より

赤外画像に書き込んだ赤線は東経180度線(かつ西経180度線)。ハリケーンHectorがこのラインを跨ぐとちょっとめんくさいことに。

台風やハリケーン、サイクロンといった熱帯低気圧に対して、世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)の枠組みの元、世界で6つの熱帯低気圧地区特別気象センター(RSMC:tropical cyclone Regional Specialized Meteorological Centre)があってそれぞれ担当エリアの監視を請け負ってます。

日本周辺はというと、気象庁がRSMC Tokyoとして北西太平洋エリアの熱帯低気圧“台風”を担当。
地域特別気象中枢@wikipediaより

困ったことにたまにRSMCの担当エリアを跨いで移動するひねくれ者が出てくる。今回話題になってるハリケーンHectorがまさにこのパターン。

今のとこRSMC Honolulu@ハワイの管轄の元でハリケーンとして過ごしてるけど、このまま西へ進んで東経180度線を跨げばRSMC Tokyoが管轄する台風として看板を掛けかえることになります。
ハリケーンHectorの進路予報を見ても順調に西進するようなので時間の問題なのかなと。
Hectorの進路予報@Central Pacific Hurricane Centerに加筆

RSMC HonoluluからRSMC Tokyoへ。
どのタイミングで引継ぐか、両者の強度解析や進路予報に大きなズレはないか。
イレギュラーな事例に対してシステムはうまく動くか。
台風の現場では色々と大変だそうです。

ちなみに、普段の台風の名前はリストから順番につけてるけど、越境してくる場合は生まれ故郷の名前をそのまま引き継ぐルール。

ハリケーンHectorから台風Hectorへ。

日本への影響はまったくもって気にする段階じゃないけど、ひねくれ台風の誕生の瞬間にご注目あれ。

しっかし本当に色んなことが起きる2018年夏ですな…。

台風12号の憂鬱

なんとも珍しいコースをたどってる最中な平成30年の台風第12号。メモも兼ねて、なんでこんなコースになってるかゆる~く記録しときます。

主な登場人物(?)はもちろん台風12号。
そして、今回随分と脚光を浴びた気がする寒冷渦。

キャラ設定はこんな感じ

台風:熱っぽくて力は強いけど意志は弱い。他人の声(風)に流されやすい。
寒冷渦:大きな体(渦)で他人を巻き込むこと多数。周りの流れを気にせずマイペースに進む、ちょっと空気読めないやつ。偏西風にも避けられ気味。

それじゃ台風12号ができた7月25日から順番に。衛星画像は寒冷渦がわかりやすい水蒸気画像を使ってます。

7月25日 台風12号誕生
台:よっしゃ、夏満喫するぞ~!でも北西には高気圧あって進みにくいなぁ。あっ、北東になんかいやな流れがあるなぁ…。

7月26日 寒冷渦完成
寒:ありゃ、蛇行しすぎて偏西風に置いてかれてもた。しゃーない、西にでも行ってみるか。
台:(まずい、寒冷渦さんだ…こっちくる…)

7月27日 寒冷渦に見つかる
寒:おーい、12号やないか!ちょっとこっちこいや!
台:いや…ぼくこのまま北に行こうと…偏西風さん待ってるし…
寒:偏西風のやつは今いないから気にすんなって!な、こっちこいって!
台:えっと…はい…じゃあ少しだけ…

7月28日 本格的に巻き込まれる
台:あ、あのぅ…ぼくそろそろ北に向かお…
寒:こんな中途半端なとこで何いっとんや。せっかくやからもうちょっと付き合えって!な!

7月29日 泥沼
台:抜け出せないうちにこんなとこまできちゃったよぉ…
寒:ここまできたらオレらは運命共同体や!一緒に行くぞ!
台:いや、ぼくもうヘロヘロだし、長居すると迷惑かかる人いるし…
寒:そんなの気にすんなって!それよりよぉ、オレあんまり早く歩けねぇからちょっとそこで待っててくれや!
台:そ、そんなぁ(涙目)

7月30日 引き続き泥沼
台:ま、まだですか…?
寒:いま向かっとるとこやがな~。ほら、一緒におるとなんか楽しいやろ?
台:う、う~ん…

7月31日 吹っ切れてくる
寒:ふぅ、これでホンマに一緒や。仲良くしよや!
台:もうこの状況を楽しむしかないのか…?そう思ったらなんか体が軽くなってきたかも??

8月1~2日(予想) み な ぎ っ て き た !
寒:一緒も楽しいもんやろ~
台:そっすね~!あっはっは!(再発達)

こんな感じで気ままな寒冷渦に降り回される台風12号、そして台風予報。
最初はちょっと引っ張られて西よりに進むくらいだった予想が、ガッツリ巻き込まれて南下するまでになってしまいました…。

そして、台風に寒冷渦が追い付いて完全に一体化。ちょっと風変わりな台風として徐々に再発達しながらゆっくり西に進む予想。
雲の形を見ても一度ボロボロになった台風が渦としてキレイになってるのがわかるかと。

で、台風が抜けたら抜けたで再び猛暑が襲いかかる日々。
ほんと、とんでもない夏ですな…

ハザードマップのススメ(洪水編)

本当に、本当に大きな被害となった今回の西日本豪雨(気象庁は平成30年7月豪雨と命名)。
こういった記録的な大雨になるとダムや堤防、排水施設内といった物(ハード)の能力の限界を超えてしまう場所が出てくるのは仕方ない。これをハードで抑え込もうとすると、とんでもない費用と環境負荷がかかってしまう。
こんなときにどう行動して被害を抑えるかは人(ソフト)の役割が大きくなる。
じゃあどうすればうまく行動できるか。

今回はそんな話を洪水をテーマに書いてみました。ちょっと長い&堅い話です。

まず最初に抑えておきたいポイント。
災害はどんな時にどこで起きるか。

当たり前だけど、どんなに大雨が降っても山の上に洪水は起きないし、平らなとこで土砂崩れは起きない。
洪水は低くて水が集まりやすいとこ・流れが淀むとこで起き、土砂崩れは急な斜面で起きる。

こうした地形や地質によるその土地が元々持つ災害に対する危険性、これが〝素因〟。
そして、大雨や地震みたいに災害を引き起こす直接的な現象を〝誘因〟といいます。
素因に誘因が重なり、さらにそこに人がいたとき起きるのが〝災害〟です。

自然現象である誘因は様々なパターンがあり、まったく同じことが起きるってことはまずない。
一方、土地の特性である素因は基本的に変わらない。
災害対策の土木工事なんかも、素因を無くすってよりは軽減する、改善するといった雰囲気です。

そこで、どこにどんな災害リスクがあるか、ある想定の現象が起きたらどれだけの被害が起きるか、を考えて作ってるのがハザードマップ。
各市町村で細かく作ってることが多いけど、手軽にざっくり把握するなら重ねるハザードマップ@国土交通省がオススメ。簡単に場所&災害種別を切り替えることが可能。
さらにわがまちハザードマップ@国土交通省では各自治体がまとめたハザードマップをまとめて探すこともできます。

ただし、ハザードマップを見てココは安心、ココは危ない、とだけ丸暗記するのはちょっと危険。
ハザードマップはあくまでもある想定に基づいた予測なので、現象の程度によって被害は大きくも小さくもなる。
また、小さな河川や崖など、ハザードマップではカバーしきらない危険性もあるってことを忘れちゃいけない。

そこでハザードマップに踏み込んで活用するために意識して欲しいのが地形。
地形もネットでお手軽に見れる時代。ブラタモリ好きなら地形を楽しむ素養はすでにあるはず。
ぜひ地理院地図@国土地理院で身の回りの地形を眺めてください。
※ぼくが見やすいなと思ったのはベースの地図+色別標高図+陰影起伏図(少し透過)。他にも色んなデータ&見た目をカスタマイズ可能。めっちゃ高機能です。今は他にも色んなツールがあるので、お気に入りを各自探すのもいいかと。

こんな災害の後に取り上げるのも躊躇しちゃうけど、より現実性を感じてもらうべく岡山県の倉敷市真備を例にします。

真備周辺の洪水ハザードマップがこちら。

そして、このエリアの地形。

この地形から真備がなぜ浸水想定が深い(≒洪水リスクが高い)か見てきます。

まず最初に着目するのは大きな川。
真備町周辺だと北から南に流れる高梁川が目立ちます。

そして、川の流れになった気持ちで川を下ってみる。
すると気になるのが次の赤丸エリア。山が連なる中をすり抜けるように流れてて、どうにも通りにくい。

ここに大雨が降るとどうなるか。
狭いとこで流れが詰まり、上流側の低地に溜まることに。

今回決壊して直接的な影響を与えたのは高梁川の支流で少し小さい小田川だけど、小田川決壊の背景には
高梁川の詰まりやすい地形→高梁川の水位上がる→小田川の水が先に流れない→小田川の水位上がる→限界になって決壊
そんな流れが指摘されてます。
「バックウォーター現象」で支流の水位急上昇か@読売オンライン

繰り返しになるけど、ハザードマップはあくまでもある想定に基づいた予測なので、現象の程度や決壊の場所によって被害は大きくも小さくもなる。
それでも、その土地が持ってる災害リスクを分かりやすく示してくれてることは間違いないです。PASCOによる災害前後の衛星画像から引用 ※撮影時点でまだ冠水してる場所=洪水被害エリアの全体、というわけではないことに注意

危ない!避難して!と言われても、なぜ・どこが危なくて、どうすればいいか。ここをあらかじめ考えとかないと有効な行動をとるのは本当に難しい。
ぜひ、身の回りのハザードマップ&地形を眺めて、なぜそこにその災害リスクがあるか、避難するにはどう行動すればいいかを考えてみてください。

これだけで防災の備えとしては各段にレベルアップ。そして、ここからはさらに上のレベルを目指す人ための話。

洪水において土地の特性を抑えた次にチェックして欲しいのが、個々の川の危険度を示してる指定河川洪水予報の存在。
ある程度の広さを持つ市町村全体の危険度を包括的に示す注意報や警報と違って、個々の川の水位実況や予測を元にして出す個々の川に対する特別な情報、それが指定河川洪水予報。
自分の近くの〇〇川が危ないよ!ってな直接的に自分に関わる情報です。指定河川洪水予報@気象庁より引用

対象となる河川は地図一覧表になってるけど、ちょっと見にくい。洪水危険度分布から近くに黒線で囲った太い川を見つけたらそれが指定河川洪水予報の対象河川。
名前を頭に叩き込んでおいて、その川が対象になった指定河川洪水予報が出たらすぐに避難行動できる準備!
そんな感じかと。

ただ、ある程度大きな河川で指定河川洪水予報が発表されるような時は相当な大雨の真っ最中。
色んな情報が飛び交い、自分が本当に必要な情報にたどり着きにくい傾向あり。
ここをどう改善するかは伝え手側の大きな課題だけど、ひとまず現状は現状として受け入れてもらうしかないかと…。

この辺の〝情報を整理して必要なとこを住民に伝える〟って作業の最終段階が地元自治体の避難勧告や避難指示。でも、逃げろと言われたってどうすればいいかはあらかじめ考えとかないとまず動けない。

自分の周辺にどんな災害リスクがあるか、そしていざという時にどう行動するか。それは住民各々があらかじめ知る&考えておいて欲しいこと。そんな考えで各家庭にハザードマップを配布したるんだろうなと。

これだけ記録的な大雨なのになんで避難しなかったんだ、なんて感じた人へ。

自分の身の周りにどんな災害リスクがあるか、そしていざというときどう行動するか。ちゃんと把握してますか??

この機会に災害を遠い世界の出来事ではなく、ぜひ自分の立場に置き換えて考えてみてください。

一生遭遇しないかもしれないけど、もし遭遇したときに自分自身と大事な人を守るために。

最後になりましたが、今回の災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

気圧の尾根?谷?いいえ、鞍部です

今回のお題は天気図、そして等圧線。

書くきっかけになったのがこちらの天気図。

6月8日12時

そして、3時間後の15時

たった3時間なのに、ずいぶん雰囲気変わった気がしないでしょか?

なんで雰囲気が違うのかちょっと考えてみると、どうやら気圧の〝鞍部〟をどう表現したかによるっぽい。
そとあたりを今回説明しようかと。

たとえばこんな気圧配置を考えてみます。
南北に996hPaの低気圧、東西に1004hPaの高気圧。
天気図の等圧線は4hPaごとに書くルールなんで、これには1000hPaの等圧線を足さなきゃいけない。
さて、どう書くか。

996hPaと1004hPaの真ん中に書けばいいわけで、ここまでは迷わない。

問題はこの先。
真ん中をどう書くか。

これかな?

それともこれかな?

どっちも等圧線としては成り立つ絵で、どっちも間違っちゃない。
正解をひとつに絞るには真ん中付近に気圧の観測データが必要で、観測データが無い限りは解析者の判断しだい。
こういった気圧の谷と尾根が交差する〝鞍部〟をどう表現するかはなかなか悩ましいテーマです。

※そもそも〝鞍部〟が何か伝わらない人も多いってなコメントを見て確かにそうだよな~と。山(高気圧)と山(高気圧)を繋ぐ稜線で、その中でも低くなってるとこ。日常生活の道でいうと峠、山の中じゃコル・キレット・乗越なんて名前がついてることが多いです。

それじゃこの鞍部の悩ましさを踏まえた上で、最初にみた15時の天気図を12時に巻き戻してみます。

まず原点の15時を再確認。

まずはカムチャツカ沖の低気圧から北海道付近の低気圧にかけてのびる低圧部をカット。
東西に分けちゃう。

続いて、北海道&日本海の低気圧の西側も等圧線をカット。
日本海中央の低気圧&低圧部としてひとかたまりに。

ただ、ここで困るのが大陸の脇にいる1008hPaの高気圧。
↑でカットした等圧線も1008hPa。
どうにも収まりが悪いけど、とりあえず1008hPa同士は繋げときます。

高気圧は周囲より気圧の高いとこ。
このままじゃ大陸脇の高気圧は高気圧失格だけど、よ~く見たら1008じゃなくて1010hPaだった!
4hPaの等圧線の狭間、2hPaを書くときは点線で書く決まりだけど、今回はペイントソフトの都合上で灰色線でご勘弁。

続いて大陸内陸部、だらっとのびる低圧部に低気圧を解析。
東西にのびる低圧部をメリハリある姿に。

ここまできたらあとは微調整。
大陸の高気圧と、太平洋の高気圧の位置や張り出しを少しいじります。

さて、それじゃ12時の天気図と比べてみます。
どうでしょ??だいたい似た雰囲気になったはず。

こんな感じでちょっとした表現や解析の差が重なると全体像としてずいぶん違う印象になるのが、天気図の難しいとこであり、面白いとこ。
さらにこれを異なる担当者間で〝ならす〟のもなかなか大変。
特に普段目にする天気図は時間制限ありの〝速報解析〟なので、どうしてもその辺が目立つことも。

天気図がガラッと変わった瞬間を見つけたらどこがどう変わったのか探すのも、天気図のひとつの楽しみ方になるかもしれません。
あまり役に立たないスキルな気もするけど(^^;)

風変わりな低気圧とひねくれた雨

今回は珍しいというか、ちょっと風変わりな低気圧が目についたのでメモ的な更新。

まずは昨日21日3時の天気図をどうぞ。
そして、1日以上たった今日22日12時の天気図がこちら。

注目して欲しいのが沖縄の近くにある低気圧。

発達するでもなく、動くでもなく。
お前、どうしたいんだ?と聞きたくなる変わらなさ。
ただボーっとそこにいる、そんな雰囲気です。

衛星画像でもあんまり低気圧としてのやる気は見られるず、だらだらと停滞するのみ。
こんな微妙な状態で維持されてる低気圧もちょっと珍しいかも。

まあ発達もしないし、大して悪さもしてないからほっとくか。

…で済ませられない気分なのが、宮崎県の人。

高気圧の縁に沿って前線から続く湿った空気が東から流れ込み、低気圧が九州の東海岸に押し付けるアシストをする形。
これが昨日からず〜っと続き、宮崎ではだらだらと雨が降り続いてます。

しかもこの湿った東風による雨。
かなり背の低い湿った空気による雨で、レーダーには映ってなかったりします。
関東で北東~東から湿った風が入ったときに降る雨と似たような感じ。22日12時の高解像度降水ナウキャスト

そして背が低いためこの雲&雨は九州の真ん中でブロック。
熊本や鹿児島西部の人はまずまずな天気なのも宮崎的には悔しいところ。

熊:ちょっと雲多いけどまずまずの天気だよね〜
宮:アホォ!こっちはずっと雨降っとるわい!
熊:またまたぁ。レーダー映ってないじゃん。
宮:ホンマや…。でもアメダス見てみぃや!

…的なやりとりを西と東でしてたりして。

だらだら続くこのひねくれた雨。
次の低気圧&前線が通過してガラッと空気が入れ替わるまでもう少し続きそう。

止まない雨はないけど、止みにくい雨はある。

宮崎の人は太陽を拝むまでもう少しお待ちください…。

山の天気の不思議~寒冷前線通過で気温上昇?

やっぱり春先の悪天は対応が難しい!
そして山の天気は奥深いです…。
「寒冷前線が通過したら気温が上がる」なんて予報士試験で書いたら即刻アウトな現象が実際には起きちゃうんだから。

天気が悪いときは山に行かないが基本的なスタイルだけど、めずらしく悪天が予想されてる中、山(の麓)で過ごす機会があったんでその記録です。

2月28日から3月1日にかけて、乗鞍岳の麓、一の瀬園地エリア(標高1600mくらい)で過ごしてきました。地理院地図より

28日から1日の天気図を並べるとこんな感じ。

日本海で発達する低気圧に南からグイグイと流れ込む暖気。
事前の予想資料では、暖気のピークとなる1日朝には長野エリアでも850hPaで+3℃に届きそうな勢い。

夜から早朝にかけて少しまとまった雪、朝には雨に変わってビチャビチャになるんじゃないかなぁ。そして寒冷前線が通過したあとは軽い寒気移流で気温はさがるけど天気はある程度落ち着くんじゃないか。
そんな予想をしながらのツェルト泊。

夜になって寝付く頃には雪が降り初め、ずーっと降ってるなぁと感じつつウトウト。
計算外だったのが降り積もる雪のせいでツェルトがどんどん狭くなるw
しかも隣のツェルトとの間でまったく余裕スペースのない張り方したもんだから、ツェルトとツェルトの間に雪が溜まって押しのけることもできない…。

そして早朝5時過ぎに起床。
まだ降り続ける雪の中、遠くから響く雷鳴。
あぁ、寒冷前線のお出ましか…。

次第に近づき太くなる雷鳴。
フラッシュのような雷光にも照らされ、バチバチと1cm弱の雪あられも登場(雹と呼ぶには密度の低い玉)。
あとから振り返ればポールやシャベルの先から〝セントエルモの火〟見れたかも、なんて呑気なことも思ったけど、当時は炊事テントに逃げ込んでさっさと過ぎ去ってくれるのを願うばかりでした。

30分くらいで雷祭りは終わり、天気も小康状態に。
それじゃと撤収作業をしてると雪が雨に変化。
ありゃりゃ、寒冷前線が通過して気温下がるはずなのに雨??なんて困惑しながらの撤収作業。

その後、昼前にはしっかり気温が下がって再び雪に。
そうそう、これが寒気移流の天気だよね。
さっきのはなんだったんだ?

そんな変化の2日間でした。

まとまった雪が降るとわかってたのに〝降ったらどうなるか〟を想像&設営に反映できなかったのが今回最大の反省。

天気が悪くなると知ってるだけでは意味がない。
その状況下で何が起きると想定され、その対策として何ができるか。
そこまで想像力を働かせてこそ、山の悪天対応なんだなぁとしみじみ実感しました。

あと、現地ではうまく理解できなかった「寒冷前線通過で雪から雨に」の謎は山を降りてから再検証。
ちょうど乗鞍エリアの近くにアメダス奈川があって、ここのデータがいいヒントになりました。
※天気図的には寒冷前線か閉塞前線か微妙な位置だけど、寒冷型閉塞だし雷鳴りまくりだし寒冷前線ってことで進めます

レーダーや天気の変化から考えて寒冷前線の通過はまちがいなく7時頃。
でも奈川では8時過ぎまで気温が低く風の弱い状態が継続。
そして、8時半頃に風が強まると共に気温が急上昇。

この風と気温が連動しての急変化、おそらく〝滞留冷気層の破壊〟によるものです。
※8時まわりの風は欠測してるけど、たぶん弱い状態続いてたはず。あと、近いとはいえ一の瀬園地より標高は500mほど低いことに注意。

教科書的な大気は高度が上がるほど気温が下がる構造。
ただし実際にはちょくちょく地面付近の気温が低く、上空の方が気温が高い〝逆転層〟が形成されます。
そして逆転層の上下では空気の性質が大きく異なり、混じりにくい状態になることがしばしば。

逆転層の成因は
地面付近が放射冷却や降水による冷却で冷えるパターン
前線や低気圧の前面で上空に暖かい空気が流れ込むパターン
など色々。

おそらく今回は両者のミックスで、低気圧に吹き込む暖気の中で地面付近(特に凹部)に降水粒子に冷やされた空気が取り残されたパターン。
そっと残された冷たい空気の中にあるうちは低温&弱風。
寒冷前線の通過に伴いこの空気が吹き飛ばされたことにより(相対的に)昇温&風速増大。
そんな変化をアメダスの気温&風速から読み取ることができます。

こんなふうに後から推測する知識は持ってても事前にそんな予測はしてないし、実際に山の中で体験するのは初めて。
つくづく山の気象条件を予測するのは難しいなぁと…。
ほんと、いい勉強&経験になりました。

ちょっとした条件の差や局地的な影響で雨と雪の境目が変わる春先の山。
穏やかな時はほんとに穏やかだけど、いざ変化する気象状況への対処という意味では厳冬期よりよっぽど難しい。
春の山はそんな危険性も含むことを忘れずにお楽しみください。

最後に。

なんでこんな天気の中で乗鞍にいたのか。
この理由は近いうちに改めて。