カテゴリー別アーカイブ: 南極

第60次南極地域観測隊員(JARE60)についての話

61次隊が来た!

気象棟から基本観測棟への引越しをなんとか乗り切ってホッとしたのも束の間。
ついに越冬終盤の大イベントが発動、それは61次隊のお迎え。

60次越冬隊だけで過ごした約10ヶ月。
特殊な環境に閉ざされたムラ社会に慣れ切った31人に環境の激変が襲い掛かる!

遠くに見えるしらせから何か飛んできたと思ったら

爆音とともにCHヘリが登場!
見知らぬ物体と爆音にパニックとなり逃げ惑う60次隊…ってほどは退化してないけど、久しぶりに文明の塊に遭遇した感たっぷり。

そしてこれまた久しぶりに見る人が多い景色。

食堂にこんなに人がいるのも59次越冬隊や60次夏隊を送り出した2019年2月以来。

61次隊が来たことで昭和基地の色んなことがガラッと変わる。

まず、景色に荷物が増えた。
CHヘリに搭載して運べるコンテナ、通称スチコンの塊があちこちに。

そんな荷物の最初は“初荷”としてデコられるのがお決まり。
しらせ艦長の名を関した“竹内海運”からのプレゼント。

スカスカになってた冷蔵庫&冷凍庫にも食材を搬入。

そして食卓にひっさびさに解凍ではない生モノが登場!

千切りキャベツ、目玉焼き、ビール。

さらに… びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛!
たまごかけご飯w

シャキッとしたリンゴも美味い!

こんな味だっけ、こんな食感だったっけと盛り上がる食卓。
冷凍技術のおかげで肉や魚は本当に充実してたけど、久しぶりに食べる果物のおいしさは本当に感動的でした。

あとは、共に昭和基地で過ごした60次夏隊や家族からの差入れや手紙。

日本を出発した2018年11月。
4歳だったちびすけは5歳になって順調に?やんちゃ坊主に。
生まれたばかりで寝転がるだけだった長女はトコトコと歩き回るように。

並んだ足跡アートを眺めてるとやっぱ1年って長いなぁとしみじみ思う。

他に感じたのは、すでに結構疲れて出涸らし状態の60次と、フルチャージで元気いっぱいの61次とのギャップ。
なんか61次が眩しい!
去年の今頃は自分たちもこんなに元気いっぱいだったんだろうなぁ。

閉鎖的環境の中で過ごしてた時間が長いから、自分の中でも変化に戸惑ってるとこをちょいちょい感じる。
鎖国してた日本が開国した時はこんな気分だったのかも、と思うとちょっと面白い。

そんな昭和基地の生活もあと1ヶ月弱、日本に帰るまで2ヶ月半。
つくづく奥さんには頭が上がらないなぁと思いながらのラストスパートです!

沈まぬ太陽

南半球の夏至を迎え、白夜真っ盛りの昭和基地。
天気さえよければ存分に沈まぬ太陽を眺めることができる日々。
おかげで残業が捗ること捗ること。
そんなありがたくも恐ろしい白夜についてちょっとメモっておこうかと。

さっそくだけど、これが今の夜中の太陽。
12/24~25にかけて日付をまたいだ2時間弱のタイムラプスです。
太陽が一番低くなる24時前後でも太陽は沈まず、地平線のちょっと上を水平飛行。
すぐにまた高くなって1日のほとんどが青空になってます。

そもそもなんで白夜/極夜が起きるかというと、地球の自転軸が公転面に対して傾いてるから。
文字で書いても分かりにくいんでとりあえず図をどうぞ。

暦wiki@国立天文台より引用

地球が南半球を太陽側に向けてるせいで南端はどう回ってもずっと太陽光があたった状態、これが地上から見ると太陽が1日中沈まない白夜。
逆に北半球は太陽と逆側になっているせいでどう回っても太陽光が当たらず、1日中太陽が昇らない極夜になってます。

衛星画像で真夜中の地球を見ると、南極付近が明るいまま。2019/12/26 0:00ひまわり可視画像@気象庁より

逆に真昼でも北極周辺はぼんやり暗くなってます。2019/12/26 12:00ひまわり可視画像@気象庁より

北極がずっと暗く、南極がずっと明るい様子は動画だとさらに良く分かる。

ひまわりリアルタイムWeb@NICTより

こうして1日中明るい白夜の昭和基地。
今は気温も日中はちょっとプラス、夜にはいちよ下がってマイナス1桁ってとこ。

色々作業・調査するなら今しかない!ってことで越冬明けの越冬隊と、翌年の夏&越冬隊が合同で慌ただしい夏を過ごすのが南極の夏の定番。

間もなく61次隊が昭和基地に到着して、各種物資の輸送、引継ぎ、作業と慌ただしさがさらにアップ。

さすがに元旦は休日ってことになってるけど、そこはお天気屋さんの悲しさ。
元旦も気にせず普通に仕事です…。
まあ国内にいても同じ生活だったから別にいいんだけど。

ゆっくり休めるのは2月の頭に越冬交代して帰路のしらせに乗ってから。
昭和基地での生活もラスト1ヶ月ちょっと。
なんとか息切れしないように頑張るぞー!!

南極で引越し! 気象棟から基本観測棟へ

60次南極観測隊(越冬隊)の、そして誰よりも気象隊員にとっての一大イベント『気象棟から基本観測棟への業務移転』
これがついに12月2日に実行されました!
基本観測棟での気象観測始まる@昭和基地NOW

ここまでホントにしんどく、長い道のりだった。
というか、まだ続いてるけど。
色々吐き出したいことはあれど、とりあえず今回は“引越し”に焦点を絞ってお届けします。

まずはこちらが気象棟。
14次隊から気象業務の拠点となり40年以上が経過した、昭和基地の中でもかなり古株の建物。

昭和基地が抱えてる問題点として、色んな観測系の古い建物が別個にあるせいで除雪や暖房なんかの管理や効率がよろしくないってのがある。
それじゃ思い切って新しい建物作って観測系を集約しよう!ってことで建てられたのが基本観測棟。
60次隊では電気・設備・内装なんかの作業を進めつつ、移転集約の第一陣が気象部門ってことで準備を進めてきたとこでした。

なんで気象部門が一番乗りかというと、まぁ単純に近くて引越しやすかったってことかと。
道を挟んで目の前だし。

これだけ近いと楽勝じゃん、と言いたいとこだけど、気象棟と基本観測棟をよく見てほしい。

南極の建物は風下にできるドリフト(吹き溜まり)をなるべく軽減するように高床式になってるのが基本。
そして、最新式の基本観測棟は気合い十分な高床っぷり。
気象棟1階→基本観測棟2階の引越しだけど、気分的には2階から3階への引越し作業。
各種観測装置やたんまりある荷物を人力で運ぶにはちょっとツラい。

こんな時こそ昭和基地の底力を見せるとき!

まずは気象棟の目の前にコンテナ置いて、その中にせっせと荷物をつめる

いっぱいになったらフォークリフトで広い場所に動かして・・・

クレーン車に吊り下げたら・・・

あっという間に2階の入り口前。

ここで荷物を運び出し、空っぽになったコンテナはクレーンで吊り下げ、フォークリフトで気象棟前へ。
コンテナ3つ使ってこの作業をグルグルと。
ついでに、気象棟屋上から基本観測棟屋上への観測機器の移転も実施。

そんな華麗な連係プレーをどうぞご覧あれ。

こんな感じの作業を3回やって、やっとこさ引越し作業がだいたい完了。
古い荷物も多いなぁと思ってたけど実際に荷造り&運ぶとホントに多かった!
移転のタイミングでも観測の中断はできるだけ短く留める必要があってとりあえず運び込むので精一杯でした。
手伝ってくれた多くの隊員に感謝!

歴史ある気象棟の看板も建築担当・小山隊員に外してもらい記念撮影。
そのうちどこかに飾る予定です。

歴史あるといえば、こちらの何の変哲もない古そうな棚(右の3個)。
裏を見るとこんなタグが。

『昭和31年10月 納』

昭和31年・・・かなり古い。

しかも。

初代南極観測船『宗谷』が1次隊を乗せて日本を出発したのが昭和31年11月8日。
ま、まさか宗谷に載って1次隊と一緒に来た棚か!?
なんと恐れ多い棚を使っていたんだ・・・。
引越し作業が無かったら絶対に気付かなかった。
“有楽町の壽商店”をググってみると今もコトブキシーティングとして現存してる会社みたい。

戦後間もない頃、日本の意地と底力から始まった南極観測。
そこから脈々と続く歴史の中に確かにいる。

そんなことを実感させてくれた引越し作業でした。

まだ終わってないけど。

基本観測棟の中の整理はもうすぐ来る61次隊にお任せしよう・・・

空に輝く太陽の指輪『幻日環』

内陸旅行から帰ってきて、溜まりに溜まった仕事とひたすら闘うこと3週間。
いい加減に気分が煮詰まってきたところに久しぶりの野外オペ。
雪上車に乗って初の沿岸エリアへ!

向かったのは昭和基地から約30km離れたラングホブデ。
目の前に広がる南極らしさ溢れる景色に心が生き返るのを感じるひと時。

でも、やっぱり南極。
きれいだな、だけじゃ終わらない。

太陽が沈まない白夜が始まり、気温も日中0℃近くまで上がるようになったせいで海氷が融け始めた。
これまでは固く凍ってたクラックも氷が緩み、危なそうなところでは道板を渡して進む。

はぐれペンギンとの出会いも素敵だったけど、水たまり&ボロボロになった海氷はちょっと落ち着かない。

そして渡れないとこは渡れない。

色んな意味で夏になったことを実感しつつ、消化不良な野外オペ終了。

自然相手だから予定通りにいかないのは仕方ない。
かなり残念だったけど、その変わりに素敵なプレゼントをくれた。

薄雲が広がってたこの日。
きれいにハロ出てるなーと眺めてた。
お、いつの間にか幻日もちょっと出てる。

あれ、幻日から横にのびるラインも見えるような…

のびてる。めっちゃのびてる。

ってか空を1周しとる!!

空全体を使った見事な太陽の指輪、これが『幻日環』。
向きが揃って上空にただよう六角柱の氷晶側面で太陽光が反射することで見える現象。

太陽~幻日を繋ぐラインは幻日とセットで出ることもあるけど、丸っとフルサイズで出ることは相当レアらしい。
ぼくが見たのも初めて。
その大きさと不思議な光景にかなり感動…

惜しむべくは手持ちのレンズじゃ広角が足りず全体像を捉えきれなかったこと。
でもまぁなんとか分かるくらいには撮れたからよかったのかな。

相棒OM-D E-M5で使ってる主力レンズは35mm換算で24-80mm。
ハロを撮るとこんな感じ。

そしてボディキャップにレンズが付いた、なんちゃって広角レンズを使うと35mm換算で18mm。
これだけ余裕のある絵になる。
ほんとにもう少しだけ広ければ幻日環もバッチリだったんだけどな…惜しい。

ボディキャップというだけあって小さいし、何より手ごろな値段で広角気分が味わえる。
マイクロフォーサーズ使いで空が好きな人は持っといて損しないかも。

久しぶりの昭和基地!

南極大陸内陸部での活動のため、内陸旅行隊として昭和基地を離れたのが10月18日

6人の仲間と、3台の雪上車。

無限に広がる白い大地をひたすら進む。

風が作り出す雪の造形:サスツルギの荒波も超えつつ…

移動と作業、そして車中キャンプの日々。

昭和基地から270km離れた標高2230mのみずほ基地。
ここに天文台を作ろう!とか言ったとか言わなかったとか。

最終的にはさらに奥、昭和基地から約350km、標高約2500mのあたりまで行ってきました。

共に旅した内陸旅行隊の仲間たち。
そして、越冬隊員31人のうち6人が抜けた状態で昭和基地の生活や業務を維持した仲間たち。

2週間ちょっと、それぞれ大変な時間だったと思う。
本当にお疲れさまでした。

内陸旅行がどんな生活だったか、どんな作業してきたか。
ぼちぼちと紹介してこうと思います。

最後に、帰ってきた昭和基地で記念撮影。
よりもい愛があふれる隊員の力作と共に。

完成度高けーなオイ。

ブリ去りぬ、そして旅立ち

10月14日から17日にかけてなが~く暴れたブリザード。
今回は3段階級のうち一番上のAブリ。
さすがAブリ!って感じでまぁ暴れてくれました・・・。

職場でありブリ中の監禁先?である気象棟が埋まるかと思った。

ってか、実際にドアがいっこ埋まったw

ブリ明けは観測機器のメンテやら除雪やらで大忙し。

色んな隊員の協力のもと、気象棟もなんとか元の姿に近づいた。

そんないつもの作業の傍ら、いつもとちょっと違う作業も。

大陸用の雪上車SM100をいっぱいこと動かしたり

雪上車用のソリに荷物を色々載せたり

ってなわけで。

今日から2~3週間。

南極大陸のキワにある昭和基地を離れ、ググっと内陸に行ってきます!

内陸に進みつつ色々な観測をする、通称:内陸旅行。
ホントは10月の頭くらいに出発予定だったけど、天気が悪すぎてただひたすら待ちの時間。
焦らすに焦らされたトドメがAブリでしたw

ブリ直後の作業が色々重なって出発前からやたらと疲れたけど、ついに待望の出発の日。

まだ見ぬ世界を楽しんできます♪

ぼくはしばらくネットが使えなくなるけど、南極の最新情報は色んな人が発信中!

南極Youtuberの南極おじさんや、なぜ南極なのかは分からないけどモノづくり名人の南極悟空
そして日々の様子を一番こまめに発信してるサンシン片手に南極へ

もちろん公式情報の昭和基地NOW!!@極地研究所もお忘れなく!

南極に咲く花、フロストフラワー

低温、強風、そして乾燥(液体の水がない)。
厳しい環境の昭和基地周辺には木はもちろん、草も生えてない。
緑といえば、雪が融ける短い夏に所々で苔類が見れるくらい。

そんな荒涼とした冬の昭和基地にも、時々咲く花がある。

場所はここ。
昭和基地の水がめ、130kL水槽。

もうちょっと近づいてみる。
何やら白い塊がいっぱいあるような・・・

さらにアップ。

どうでしょ、この綺麗な白い花。

これは“フロストフラワー”。
直訳すると“霜の花”。
一言でいうと、でっかく成長した“霜”です。



氷と水が近い場所にあって、風が弱い状態でよく冷えた寒い日。
水からどんどん蒸発した水蒸気は近くの氷に昇華(凝華)して霜として成長。
このベストな状態が続くと霜はグイグイと成長して手のひらサイズの立派な花、フロストフラワーとして美しい姿を見せてくれる。

130kL水槽は発電機の排熱で雪を溶かして水を作る施設。
寒い冬もだいたい水槽の一部は水、そのほかは凍ってるってなフロストフラワーの成長には絶好の場所。
よく冷えた風の弱い朝には見事な花が咲き乱れてます。
ちなみにこの写真を撮った日の朝はマイナス26℃でした。

暖かいところから冷たいとこへの水蒸気の移動&着霜。
色気のない話を持ち出すと、古いタイプの冷蔵庫で冷凍室の奥にびっしり張り付く霜と仕組みは一緒。

日本国内でも厳冬期の阿寒湖で凍結&温泉湧出による開放水面って条件が揃ってて、気象条件さえよければ見事なフロストフラワーが見れるみたい。

そういえば1月の阿寒湖に遊びに行ったことがあったけど、確かに朝起きたら色んな物に付いた霜がすさまじかった記憶が。
霜とダイヤモンドダストは見たけどフロストフラワーは気にしてなかったな。

阿寒湖のフロストフラワーは見学ツアーもやってるみたいなんで興味のある人はぜひ調べてみてください。
厳冬期の道東、ちょいとハードル高い気もするけど色々寒さを売りにしたイベントもやってるし、オホーツクエリアの流氷観光とセットで回ったりすると最高に面白い。
少なくとも南極よりは行きやすいですw

早朝の阿寒湖氷上散歩でフロストフラワーを見に行こう@北海道Likers
【冬の絶景】阿寒湖・フロストフラワー@北海道ラボ

南極の“冷たい空”と突然昇温

今回はちょっぴり気象学の匂いがする話。
日本と南極の空の違いについてです。

気象について少し勉強すると、必ず出てくる“対流圏”と“成層圏”。
普段気象現象が起きるのは地表から10数kmの厚みを持った対流圏で、上空ほど気温が下がってく。
そして対流圏の上には(対流)圏界面を挟んで、上空ほど気温が上がる成層圏。

どんなに発達した積乱雲も、どんなに強い台風も基本的に対流圏の中で起きる現象。
たまにISS(国際宇宙ステーション)から届く台風やハリケーンの写真で“薄っぺらい対流圏”を見ることができます。

圏界面の高さは季節によって変動するけど、基本的な構造は夏も冬も変わらないのが日本の気象。

じゃあ南極ではどうなってる?ってのが今回の本題です。

大気がどんな構造になってるかを直接知ることができるのがラジオゾンデ観測。
大きな風船に測器を着けて放球、高度約30kmまでの気温や湿度、風なんかを計測。
南極でも基本的に1日2回、ちょっとやそっとの強風やブリザードの中でも観測を続けてます。ゾンデ放球をするK隊員

それでは実際に昭和基地の夏のデータを見てます。
縦軸に気圧・高度、横軸に気温(&その他)を書いたグラフ。
一番上まで延びてる黒実線が気温です。

2019/2/15 00UTC、昭和Upperair Air Data@ワイオミング大学より

日本と比べると当然ながら全体的に対流圏の気温が低く、対流が弱いもんだから圏界面も低い。
それでも対流面~圏界面~成層圏って構造はしっかり見えてる。
まあ普通の姿です。

これが冬になると…こうなる。
極夜真っただ中、7月頭の観測データ。
2019/7/1 12UTC、昭和

上空に行くほど気温がどんどん下がり、圏界面を境に気温が上がら・・・ない。
ってか、圏界面はどこ??
もはや違和感しかない大気構造。

なんでこうなるかは、成層圏が暖かい理由にある。

成層圏で重要な仕事をしてるのがオゾン層。
オゾン層が太陽光線に含まれる紫外線を吸収してるってのは誰でも知ってると思うけど、オゾン層では吸収した紫外線のエネルギーを熱に変換してます。
この熱で大気が温まり形成されてるのが成層圏ってわけ。オゾン層とは@気象庁より

ところが、南極の冬には太陽の光が当たらない極夜がある。

そうなると成層圏を加熱する熱源が無くなってしまい成層圏は自然と冷却。
こうして単純に上空ほど冷たい大気構造のできあがり。

さらに南極は地形的にだいたい綺麗な丸い大陸、そして大陸の周囲はぐるっと海。
このため南極上空で形成されたとっても冷たい空気はなかなか混ざることなく、綺麗な低気圧性の渦 “極渦”として鎮座するのが南極の冬の定番です。
この極渦がオゾンホールの形成にも重要な役割を果たしてたりするけど、長くなるんでまた別の機会に。

話を戻してこの極渦。
毎年ドカッと南極大陸の上に居座るのが普通の姿だけど、ごくたまに極渦が乱れて南極上空の成層圏で気温が一気に上がることがある。
これが“成層圏突然昇温”です。

次の図は南極周辺の30hPa面、高度20数kmの気圧配置的なやつ。
去年の今頃は南極大陸の真上にいた極渦(低気圧)が・・・

今年は高気圧に横から押しのけられてる状態。
大気の循環@気象庁より

極渦は冬の北極でも形成されてて、地形的に渦が乱れやすい北極では成層圏突然昇温がちょくちょく起きる。
でも、流れが安定してる南極で起きるのはかなりレアだとか。

そしてどのくらい気温が上がるかというと、2019/8/23には昭和基地上空の10hPa(高度30km弱)で約-75℃だったのに…

1週間後の2019/8/30には同じ10hPaでなんと約-5℃!

最初に観測データからこの現象を見つけた人はそりゃもう困っただろうなとw

いま、南極のはるか上空ではこんな劇的なイベントが起きてる。
それをこうして日々の観測データで目撃してるってのはなかなか貴重な体験。

じゃあなぜこんな現象が起きてるかというと、ここで書くのはちょっとしんどい。

…というか、対流圏ばかり相手にしてるぼくには荷が重すぎ!

気になる人はとりあえず成層圏突然昇温@wikipedia
それでも満足できない人は“成層圏突然昇温”でググってヒットする論文でもご覧ください・・・

昭和基地NOW!!に登場した若者もきっとそのうち昭和基地の観測データの総力を挙げてこの現象を解析してくれるはず。
がんばれー!

ブリ去りぬ

1ブリ去ってまた1ブリ。
最近また悪天率が上がってきた気がする南極ライフ。
昨日今日とブリザード後でバタバタしてたんで簡単に記録です。

24日夜から吹雪が始まって、25日は1日中こんな感じ。
こんな天気でもメインの職場である気象棟への通勤はするし、ゾンデも上げるし、なかなか大変。

そして26日朝にはブリがひと段落。
風はまだ10m/sくらい残ってるけど、とりあえず外で動けるようになったら観測機器のお手入れ。

まずは気温&湿度計を守る百葉箱。
だいたいブリの後には中にも雪が入ってるんでさっさと除雪がお約束。

パカッと開く扉からせっせと除雪

南極仕様の百葉箱、除雪しやすいように底も開くようになってる優れ物

綺麗になった~♪

除雪が終わった後は基準となる測器と比較してちゃんと正しい値が測れてるか確認もして、そこをクリアすれば一安心。
百葉箱の他にもあちこちにある測器を確認しに歩き回るけど、写真撮るの忘れたから今回は省略で。

そして26日夜から27日朝。
たった半日の中休みが終わり、またもや20m/s級のブリ襲来。
天気が悪いと仕事が増えるのは国内でも南極でも一緒。
だってお天気屋さんだもの…

でも、今度こそブリ一過の素敵な景色!
点検に回りながらスッキリ生まれ変わった景色を楽しみます。

そして、自分が担当する仕事だけで終わらないのが南極ライフ。

たった31人で昭和基地を維持する越冬隊。
各隊員は自分の仕事を持ちつつ、お互いを助けつつ、人手が必要な作業には総当たり。

ってなわけで、ブリ明けの恒例行事:130kL水槽の除雪作業。

基本的に気温がマイナスな昭和基地。
周囲に“水”はなく、あるのは雪と氷だけ。
これを発電機エンジンの排熱で溶かして水を作ってます。

そのための大きな水槽が130kL水槽。
ここが機能しなくなると水が一切使えなくなるわけで、そりゃもう必死に作業するってもんです。

人も重機もせっせと雪かき。そして水槽への適度な雪入れ。
130kL水槽以外にも建物や道路の雪かきもあって、ブリ後の昭和基地はまさに白い土木現場です。

そんなことをしているうちに、あっという間に漂う夕方の気配。
極夜があけて、ほんと1日ごとに昼が長くなる。
今の日没は17時頃、すっかり普通の世界になっちゃいました。

そんな景色を眺めつつ、昼作業の締めに測器の点検をもう一個!

南極の不思議な風、ハイドロリックジャンプ

今朝、薄明の空を眺めると何やら遠くに雪煙。

太陽が出てくるころには雪煙がさらに大きくなって・・・

すっかり明るくなったころには雪煙はより高く。そして広く。
昭和基地から眺めれる南極大陸の縁に沿うように雪煙の壁が延びてきた。

この雪煙は“ハイドロリックジャンプ”って現象。

天気のいい穏やかな日には、南極大陸は内陸部でキンキンに冷えて重くなった空気が斜面を流れ下る“カタバ風”って風が常に吹いてる。

カタバ風は斜面を勢いよく流れ下るけど、斜面が終わる大陸沿岸部で失速。
この風の流れの速度が変わる場所で流れが乱れて大きく跳ね上がることがあって、これが“ハイドロリックジャンプ”。
日本語だと“跳水(ちょうすい)”って現象です。

小さなのは何回か見てたけど、ここまでハッキリしたのを見れたのは初めて。

昭和基地から見ると南極大陸は東側にあって、東風がどんどん吹き寄せてくるのに見事に吹き上がって全く届いてこない。
大陸海岸の4~5km先までは強い東風が吹いてるのに昭和基地はずっと南風でした。

しばらく眺めてたかったけど、今日の気温は-25℃で5m/sの風もセット。
とても外でぼんやり立ってる気分にはならない寒さ。

眺める代わりにタイムラプスを撮ったんでどうぞ(5s間隔×10fps、50倍速)。
大陸から流れ下るカタバ風と、巻き上がるハイドロリックジャンプの様子がよく分かります。

見たいと思ってた自然現象、またひとつゲット!