波浪学のススメ(うねりとの付き合い方)

本格的に始まった夏休みシーズン。
台風はいるけどまだ遠いし大丈夫。とりあえず海でも遊びに行くか!

でも、今週末みたいに、天気はそんなに悪くないけど、遠くに台風があって、そろそろ“うねり”が入りそう、な状況が非常に危ない。
いわゆる“土用波”で、「堤防や磯で釣りをしてたら予期せぬ大波で流された」というのが事故の典型例。

自然を甘く見てると痛い目に会うのは山も海も一緒。
山が好きだけど海も好き、ってことで“うねり”と上手に付き合うためのポイントをご紹介。

①波の特性
まずは最初に“波”の話。

波がどうやってできるかというと、当たり前だけど風が吹くから。
強い風でできるバシャバシャとした波を“風浪”といい、風浪が風の弱いところに伝わりながら丸みを帯びて周期が長くなった波が“うねり”。
この風浪とうねりが重なりあったのが普段目にする波“波浪”です。

様々な高さや形の波が混じりあう中で波の高さを表現するのに用いるのが“有義波”という概念。
「ある地点で一定時間に観測される波のうち、高いほうから順に1/3の個数までの波について平均した波高」を有義波高と定義してて、目で見た波高に近い値と言われてます。
天気予報や観測データで一般的に「波高」として使われてるのは、この有義波高。波浪の知識@気象庁より

ここで重要なのが有義波は“平均した波”ってこと。
平均というからには当然それよりも大きな値を含んでいるわけで、統計的には100個の波の中には有義波高の1.5倍の波が、1000個の波なら有義波高の2倍の波が含まれてることになります。
周期10秒の波としたら、100個で20分弱、1000個の波で3時間弱。
このたまにくる大波が曲者。サーフィンの場合はこのおかげで波が小さい日でものんびり待ちながら遊べるわけですが。

② うねりの特性
続いて“うねり”ならではの特性の話。

遠くにある台風の周辺で猛烈に発達した風浪は、うねりとして遥々伝播。
周期10秒の波が伝わる速さは約40km/hで、1000km離れたところから伝わるには1日ちょっと。
元が何だったのか忘れてしまうほどタイムラグがあります。(実際には伝わりながら周期が伸びる&周期が長いほど波は早くなるのでもっと複雑)

“うねり”は見た目が丸く、周期が長い=波長も長い波。
白波が立つわけではないので沖からくる大きなうねりは気付きにくい。

さらに、海岸近くで海が浅くなると波は高く&急峻になる“浅海効果”という変化があるけど、この効果は波長が長い波ほど強く影響が出る。
ずっと前にできた波が・そ~っと近づいて・目の前で急に高くなる。
そんな恐ろしさを“うねり”は持ってます。

③ 波浪の観測&予想
そして最後に観測&予想の話。

気象と同じく、波浪の世界もスパコン×数値モデルによる予想が基本。ただし気象と波浪で違うのは、波浪は観測データが圧倒的に少ないってこと。

ネット上で利用できるとこだとナウファス@国土交通省港湾局波浪観測情報@気象庁
あとはたまに通る人工衛星の観測データがあるくらい。
様々な手段で高頻度&広域の観測データが得られる気象とは相当な差があります。

そんな限られた観測データを共にして数値モデルが計算するわけだけど、困ったことに数値モデルはうねりの表現がちょっと苦手。
そして予想と実況がどうズレてるか比べようにも実況データが少ないという3重苦。

最近はいろんなところ(国際気象海洋GPV気象予報波伝説とか)で数値波浪モデルの計算結果を見ることができるけど、「数値モデルはうねりの表現がちょっと苦手」ってことをしっかり踏まえた上で見るべき資料です。

そんな諸事情を踏まえた上で予報官が出すのが天気予報。
波の予報に「うねりを伴う」とあったら、特に現地では周囲の状況に注意を払ってください。28日11時の水戸地方気象台の天気予報

ナウファス@国土交通省港湾局の実況でも関東付近じゃ急激に周期が伸びて波高も上がり、そろそろ本格的に台風第5号からのうねりが届き始めたみたい。

台風第5号はしばらく南の海でウロウロする予想。
そこそこのうねりが入る状況も長くなりそうなので海で遊ぶ予定の人はくれぐれもご注意を。

サーフィンやるには願ってもない好条件といえるけど、今回のうねりはかなりしっかりした高さになりそう。
初心者にとって、2mを超えるようなうねりは迫り来る脅威の壁。波の頂上から谷を覗き込み、高度感に体が一瞬でも固まったら波に揉まれてあっという間に海底行き。

挑戦するのはいいけど、無茶をしちゃダメ。

自然をなめちゃいかん、を実際に体験した元ヘタレサーファーからの忠告です・・・。

最後におまけ。

海遊びする人向けのゆるい本はいっぱい出てるけど、そこからもう一歩踏み込んで“波浪学”に触れてみたい人にオススメするのがこちら。
数式はすっ飛ばしても大体の雰囲気は掴めるし、何より数式見ると眠くなる病のぼくが読み通せた貴重な一冊ですw
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