ロケット雲について気象屋として考えてみた

先日、1月24日の国産ロケットH2A 32号機によるロケット雲、夜光雲。
実際に見れなくても、後から写真を見たひとも多いんじゃないでしょうか。ぼくも直接見ることはできず、後から知って猛烈に悔しい思いをしました…。

KAGAYAさん@twitterより、東京湾からみた夜光雲

そんなわけで、今回の反省を生かして次回に繋げるべく、何が見えたのか、何が起きてたのか、そして次はいつ狙えるのかをちょっと整理してみました。

まず、何が見えてたのか。

抑えておくポイントは「夕方に輝く高い雲」が「めっちゃくちゃ広範囲で」見えてたということ。

普段目にする雲は、水蒸気がたっぷりあって対流も激しい“対流圏”の中にできる雲。一番高いところにできる巻雲(ほうき雲)や、高く立ち上がる積乱雲もその上限は高度10数km。
そこには対流圏界面という強力な見えない壁があって、この壁は絶対越えることができません。
だから同じく雲が見れる範囲というのはそこまで広くない。夏の夕立みたいな積乱雲でもどんなに頑張っても関東平野くらいの広さ。

ところが今回はとんでもない。
上記の東京湾に加えて、山梨や(Haruさん@twitterより)

なんと西は岡山でも!(倉敷科学センターさん@twitterより)

ほんと、とんでもない広範囲で同じ雲を見れるイベントでした。これはこの雲が普通の雲よりず~っと高いとこにあることを意味してます。

普通のはせいぜい高さ10kmと書いたけど、この例外となるのが今回の主役である夜光雲。夜光雲は普通の雲よりずっと高い80kmくらいにできるごく薄い雲。

この高さになると空気はスッカスカで地上の1万分の1くらい。空気がないってことは水蒸気もほとんどないから雲もできにくい。でもなんでそんなとこに雲できるかというと、この80kmってのは大気の中で一番寒い層だから。超高層大気@理科年表オフィシャルサイトより引用

水蒸気の宝庫である地上付近から、やっとのことで遥か上空まで漏れ出した水蒸気。これが極限まで冷やされてギリギリ雲になる高さ、それが80kmにある中間圏と熱圏の境目、中間圏界面付近ってわけ。
そして、ほんの僅かな水蒸気を搾り出すようにできる薄い雲だからとっても見にくい。周りが暗くなって、高いとこにある夜光雲だけに光があたる時に光って見えるのが「夜光」たる所以です。
(夕方、上空を飛んでる飛行機が輝いて見えるのと一緒)

さて今回。
そんなスカスカで冷え冷えな中間圏を、たっぷりの燃料を燃やして大量の水蒸気を撒き散らしなが飛んで行ったのが種子島から打ち上げられたH2A 32号機。
イメージとしては、プールに墨汁をバケツで投げ込むくらいのインパクト。自然には絶対ありえない大量の水蒸気が高高度の大気の中に広がり、今回の素敵なロケット雲(人為的な夜光雲)に繋がったんだろうなと。

ついでに、夜光雲の高さが80kmというのもあくまでも自然にできる夜光雲の話。今回はロケットによって上下に広い層で水蒸気をばら撒いたので、全体としてはもうちょっと上下に広がりのある雲だったと思います。
だいぶ推測の度合いが大きくなるけど、中間圏がある高度60~80kmのうち、それなりの範囲で。

なぜかというと、東京から夜光雲が見えたのは南西方向。種子島で打ち上げられたロケットの煙がここまで流れてこないと始まらない。
今回みたいな静止軌道衛星を積んだロケットは高度を上げつつほぼ真東に飛んでくけど、10分もあれば東京の南を通過。おまけにその時の高度はすでに200km越え。ほとんど宇宙です。

ロケットの打ち上げ時刻は16時44分。夜光雲が見えたのは18時前後。この1時間のあいだに種子島周辺から東京から見て南西の位置まで流れてこなくちゃいけない。
ほんとにそんなふうに流れるの??と疑いたくなった時に見るのがこちらの映像。

藤井大地さん@twitterより

とっても高く、なおかつず~~っと遠くにあるはずの夜光雲が、すぐ近くにある雲と同じような速さで動いてるように見える。これは、遥か上空の夜光雲がとんでもない速さで東に流れてるってこと。

しかし、ここで困ったのが自分の知識の限界。
普通の気象は対流圏(高さ10数km)でほぼ完結するので、それより高い大気の世界は正直よく知らない。たしか高高度にもしっかりとした大気の流れがあったような、と思って調べてて見つけたのがこちらの資料。

超高層大気の風と波@地球電磁気地球惑星圏学会より引用、加筆

1月の、北緯30度の、高度60~80km(図中の青枠)には、なんと秒速50メートル以上の猛烈な西風が!
50m/sは時速にすると180km/h。
実際にこの日にどれだけの風が吹いてたかまでは詳しくわかんないけど、少なくともこの季節に猛烈な西風(中層大気ジェット)があることは間違いなし。
ちなみにこの風は季節変化で夏には東風になるらしく、もし夏の打ち上げだとロケットの煙は西に流れて本州側じゃ見えにくくなりそうな予感。

そうそう、ロケットの打ち上げ方向についても少し補足。
今回みたいな静止軌道(赤道上空)への衛星は東向き、静止軌道よりずっと地球の近くな極軌道(地球を縦にぐるぐる回る)への衛星は南向きへの打ち上げが基本。
向きは変わるけど、ポイントとなる高度60~80kmを通過する時の位置はそこまで大きく変わらないんで、打ち上げる衛星による見えやすさの差はそんなにないと思う。たぶん。

というわけで、長くなったけど以下まとめです。

  • 今回の雲は、H2A 32号機による人工的な夜光雲
  • ロケットが撒いた水蒸気が高高度の西風に流されてきたもの
  • また見たかったら、特に冬、夕方(または夜明け前)の打ち上げを狙うべし!

まとめ、なんて書いたけど断言できない程度の自信…。
次の打ち上げで確認できたらいいな。というか、早く直接見たいっ!!

最後に。
今回のネタを書くにあたり、以下のサイトがとっても参考になりました。
スペシャルサンクス!

ひまわり8から見たロケット打ち上げ ~ H-IIA F29のロケット雲を宇宙から見よう!+夜光雲 @ロケッこがゆく

H2A 29号機の打上げに伴うロケット雲?!@togetter

日本に極域の雲出現か?@空のkiroku


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