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20180501針ノ木岳

2018/5/1に登った北アルプス・針ノ木岳のメモ。
GWの針ノ木雪渓がこんなもんでしたって記録です。
ただ、春は融雪と降雪を繰り返す季節で日々の変化がとっても激しい。
シーズンごとの差も大きいから毎年こんな感じ、とはならないことにはご注意を。

それじゃまずはルートの確認。地理院地図より

スタート地点は立山黒部アルペンルートの長野側の起点、扇沢。
そこからメインの谷をずっと遡り、日本三大雪渓のひとつ・針ノ木雪渓から山頂へ。
夏道は針ノ木雪渓から針ノ木峠へ向かうけど、春はマヤクボ沢の雪も繋がってるからこっちからでも登れるようになってるとか。
分岐する大きな谷はあるけど、視界が良くて地図とコンパスさえ持ってればまず迷うことはないだろなと。

それよりも雪渓ルートで怖いのは雪崩。
そこに大きな雪渓ができるのはまわりから雪崩として雪が集まってくるから。
急に気温が上がったり、まとまった雪が降った直後にはとても登る気にはならないルート。
今回は暖かい日が続いてはいたけど、1週間近く降りものはなかったんで周りの谷や沢からの湿雪雪崩を中心に気をつければOK。
そんな判断でした。

それじゃここから写真で振り返り。

扇沢のバスターミナルに向かって左手が針ノ木岳への登山口。
登山ポストもあるんでもちろん登山届は出しましょ。

登山届けの出し方の①コンパス ②長野県電子申請
とオンライン物が並んだ後に③登山ポストへの投函 と並んでて、さすが長野県とちょっと感心。

登山道は入った直後は地面も出てたけど、すぐ積雪エリアに。
作業用道路と分かれて右岸(山を背にした時の右手、登り手から見ると左手)を進みます。
谷の底も歩けそうではあったけど、中央部はもう開いてるし大きな堰堤を何個か越えるので端っこ歩くのが無難。
この時点でも脇から雪の固まりがゴロゴロっと流れてきてたので油断は禁物。

この辺はほぼ真西へ、赤沢って谷を正面に見ながら進む。
赤沢に近づくと次第に南西に曲がり、大沢を横切っていよいよ針ノ木雪渓の本谷へ。
大沢から蓮華岳を狙う人もいるみたいだけど、素直に針ノ木岳に登る人は迷い込まないように気をつけたいポイント。

大沢を過ぎると正面にズバリ岳~針ノ木岳を眺めながら延々と雪渓を登り詰めてくことに。
斜度もジワジワきつくなり、振り返ると爺ヶ岳がステキな眺め。

標高2100mあたりは谷が狭く傾斜もちょっと急で〝のど〟と呼ばれるポイント。
谷底であるルート上は見事に湿雪雪崩のデブリまみれ、支谷の上部にはまだ雪庇もあるっぽい。
自分がどの谷の下部にいるのか、雪崩たらどのくらい広がりそうかを特に強く意識して歩く必要があるエリアでした。

〝のど〟を抜けると傾斜は緩くなり谷も広がり、だいぶ針ノ木岳の姿がハッキリ見えるけどまだまだ標高差を感じる景色。
さすが日本三大雪渓、そうそう簡単には終わりませんw

そろそろしんどくなってきた頃、針ノ木峠へ向かう夏道とマヤクボ沢へと別れるところに到着。
まったりしたくなるけど針ノ木峠の手前にはまだ雪庇の姿も。
なるべく安全な場所を選びつつ、山側を眺めながらの休憩を忘れずに。

終盤の登りはマヤクボ沢を選んだけど、向かって右手の雪渓は広そうだけどかなりの傾斜。
まだ左手からの方が攻めやすそうだったのでハイマツの脇を抜けて岩場混じりのルートを開拓することに。

となりを見ると、マヤクボ沢の奥側にはスキーを担いで急斜面に挑むツワモノの姿が。
立派な雪渓だからまだしばらくの間は繋がってそうだけど、かなりの傾斜がしばらく続くんでのんびり登りたい人にはオススメしにくい雰囲気でした。

ハイマツの脇を通り、岩場の多いエリアを抜けた後はトラバース気味に稜線へ。
ここまで来たらあと少し!
山頂直下の急斜面をグイッとあがって…や~っとこさ針ノ木岳のてっぺん♪山頂周りは吹き飛ばされて雪がほとんど付いてないんで、なるべくアイゼンは外しておいて欲しいとこ。
必要ないとこでザクザク地面を荒らすのは見ててあんまり気持ちのいいもんじゃないです…。

登ってきた針ノ木雪渓方面を振り返れば、ズバリ岳~爺ヶ岳~鹿島槍まで続くなかなか魅力的な稜線。

西には黒部ダムを含む渓谷を挟んで立山・劔岳。

南には三俣蓮華の奥にちょっとかすれた槍ヶ岳も。

スタート地点の扇沢からの標高差は約1400m。
しっかり登ったかいあってほんとにステキな景色♪
アルペンルートを使わずに登ることの大変さもよくわかったw

1時間以上山頂でまったりした後は尻セードも交えつつ楽しく下山。
もちろん後ろ&左右への注意は忘れずに。

まだまだたっぷりの雪を抱く針ノ木岳。
溶けゆく姿に春を感じる素晴らしい山でした(*´∀`)

7:3でスキーヤーが多かったけど、登山としてはちゃんとしたアイゼン&ピッケルが必要で標高差もたっぷり。
天候次第じゃ雪崩のリスクも大きい中級以上のルートなんでくれぐれも無理しないようにお楽しみください。

春(融雪期)の雪崩についての一般的な注意事項はこちらも参考にどうぞ。
【お知らせ】春季における一般的な注意事項_180402@日本雪崩ネットワーク

雪渓ルートは雪崩のリスクが高いルートで、春の高山はまだまだ雪も降る領域。
〝注意して登る〟以外にも山やコースを変えるって選択肢もお忘れなく!

アラケン先生の那須雪崩事故論文を山好きお天気屋さんが読んでみた

ちょっと前に気象研究所のアラケンこと荒木健太郎さんが発表した2017年3月の那須雪崩事故に関わる論文。
(報道発表)平成29年3月27日栃木県那須町における表層雪崩をもたらした短時間大雪について@気象研究所

主に気象イベントとして那須で何が起きてたかについてまとめたもので、内容が気になってる山好きさんも多いはず。
ただしもちろん〝論文〟なわけで、気軽に読むにはちょっとツラい…。
そんなアラケン先生の論文を山好きお天気屋さんのぼくが山好き視点で勝手につまみ食い!ってのが今回のお題です。

あくまでも読みたいところを読み取った&勝手に解釈してるだけなので、このブログを読んで「アラケン先生がこんなこと言ってたんだって~」とはならないのでご注意を。
元の論文をそのまま読む気になる人はもちろんそちらをどうぞ。

さて、ここから本題です。

論文の項目は
・観測&解析データを使って事例解析
・数値モデルを使って再現実験
・アメダスデータを使って統計解析
・雪崩について
な流れ。

でも、ぼく的に山好きにとって重要と思う順番に勝手に並び替えて解説してきます。

①那須ってどのくらいの頻度で大雪になるの?
元論文では後半の扱いだけど、まずは那須エリアの降雪特性についての話。
この項目(4項)を読むにあたり、押さえておいてほしい前提条件が。

この統計調査はあくまでも標高750mくらいにあるアメダス那須高原のデータを使ったもの。
山岳域には滅多に観測データがないので仕方ないけど、今回雪崩事故が起きたような標高1500m級の山岳域のデータを使ってる訳じゃないってことはしっかり覚えておいてください。
実際、地図で見るとこのくらいの差があります。地理院地図に加筆

さて、それじゃ改めて那須エリアの降雪特性の話へ。
アメダス那須でまとまった雪になったイベントを気象現象別に仕分けたのが表1。荒木健太郎,2018より引用

どちら側かというと太平洋側エリアに面してる那須エリアだけど、冬型気圧配置による大雪が6割強。
強い冬型になるとしっかり那須エリアまで雪雲が流れ込んでくるってこと。

最近だと2017/12/27が冬型による大雪事例。
衛星画像と天気図を見るといかにも冬型!って雰囲気です。

そして冬型以外にも太平洋側の降水イベント、南岸低気圧よる大雪もそれなりに。
前線を伴う/伴わないで分けてるけど、合わせると約3割。
もちろん今回の那須雪崩事故(2017/3/27)もこちら。

じゃあ今回みたいな南岸低気圧による大雪はどのくらいの頻度で起きるか、を調べてるのが図12。
現象の度合いの分布からどのくらいの頻度で起きるのかを求める手法です。荒木健太郎,2018より引用

この図から読み取って「数年に1度、3月としては20年に1度」というのが論文内の結論です。

ただし!

山好きとして忘れちゃいけないのが、これはあくまでも標高約750mにあるアメダス那須での話ってこと。
標高が大きく違うってことは、気温もかなり違う。
これだけ標高差があるとアメダス那須では雨だけど、山岳域では雪って事例がそれなりにあると考えた方が自然です。
さらに、比較的気温が高い降雪イベントである南岸低気圧の方がこの標高差による条件の違いが大きく効く可能性も十分。
(冬型による大雪は寒気がたっぷり流れ込んでる最中のイベントなので、南岸低気圧に比べて気温が低い傾向。この辺は5.2項、図16あたりで触れられてます。)

山好きとしては「山麓でも数年に1度、3月としては20年に1度起きる雪。そして山岳域はもっと多いかも。那須は思いっきり雪山だ!登るからには雪山装備&心構えを!」といった理解でいたいところ。

続いて、ちょっと気象学な話。

②どうしてこんなに降った?
山岳域にはほとんど観測点はないってのは前に書いた通り。
こんな時によく使われる手法が数値予報モデル(コンピューター)による再現実験です。

・気象庁が普段天気予報のために使ってる設定よりずっと細かい領域で数値モデルを走らせてみた。
・アメダス那須のデータで検証したら結構いい結果。
・だから数値予報モデルの表現から色々考察してみるよ。
ってのが2.1項と3項の話。

降雪の仕組みについて書いてる3.4&3.5項をざっくりまとめると
①低気圧の北側で湿った北~東風が吹いてた
②この風が那須岳の北東斜面に当たって上昇気流になってた
③この上昇流域ではうまく雪を降らせる〝種まき効果〟ってのが効いてたみたい
④その結果、那須岳の北東~東斜面で短時間にまとまった雪になった
こんな感じ。

①②④だけだと冬に日本海側山岳域でもっさり雪が降る理由と同じ。
でも、今回は高いとこからの降雪粒子×中下層の湿った上昇流域とのコラボ(種まき効果、Seeder-Feederメカニズム)も効いてたみたいってのが気象学的なポイントになってます。

シーダー・フィーダー効果の概念図、雲の微物理過程の研究,荒木健太郎(気象研究所)より引用

まあ山好きとしてはその辺の細かい話はあまり重要ってわけじゃなく、シンプルに「山に湿った風が当たると風上側はいっぱい降るよね」だけでもいいかなと。
Seeder-Feederメカニズムってのが効いたらしいぜ…と盛り上がれる人を山仲間から探すのはちょっと大変な気がしますw

続いて次のテーマ。
③どんな低気圧だと大雪になるか
ってのが5.2~5.3項の話。

これまたざっくりまとめると
・風速や気温、水蒸気の流れこむ量あたりじゃハッキリした傾向は見られず
・降る時間が長いと雪も多いって傾向がある
・閉塞しつつある南岸低気圧の時は短時間で大雪になることもある
ってところ。

ここからはぼく個人的な感覚だけど、南岸低気圧で那須エリアにしっかり雪を降らせるには湿った北東~東風をどれだけしっかり吹かせるかがポイントになりそう。
そのためにはスルッと通過&遠ざかる普通の低気圧ではなく、上空の流れから取り残されて動きが鈍くなる〝閉塞〟ってキーワードが効いてきそう。
那須雪崩事故の時の気圧配置みたく、東西に低気圧が並ぶとさらに効率よく湿った東風を運び混むのかなぁと。

ただ、こういった低気圧の傾向から降雪●cmなんて予想に繋げるのは他にも要素が多すぎてまず無理な話なんで、「関東付近で発達したり動きが遅い低気圧にはより一層注意」くらいの意識で十分な気がします。

そして最後に雪崩の話。

④南岸低気圧の雪は雪崩やすい?
これは5項で触れてる内容。
南岸低気圧の層状雲による降雪はさらさらした雪や、細かなツブツブが着いてないキレイな樹枝型結晶が降ることが多く、崩れやすく〝弱層〟として振る舞うことがある。
ってのが、日本の雪氷学界隈で一般的な認識。
今回もそんなタイプだったと思われる、ってのが結論。

ただし!

山好きはこれだけで終わっちゃダメ。
「南岸低気圧の雪には気をつけるぞ。今日は違うから気持ちいい斜面にみんな同時にヒャッハー!」とかしようもんなら間違いなく寿命は短くなります。

南岸低気圧が関わらない雪崩もたんまりあるわけで、南岸低気圧に要注意=南岸低気圧以外は大丈夫 とは絶対なりません。

南岸低気圧だろうが、冬型だろうが、まとまった雪が降ったときは最大限に雪崩への警戒が必要。
もっといえばそこに雪の斜面がある限り、雪崩の可能性があると考えて行動すべき。

気象学や雪氷学の知識も大事。
でも、登山者自信の身を守るのに一番大事なことは、どういった場所が雪崩の危険性が高く、どうすればリスクを最小限に留める行動になるのか。
そのあたりの知識&判断力じゃないでしょうか。
今回の雪崩事故も南岸低気圧の雪だから起きたのではなく、雪山における行動が間違ってたから起きた、の方が本質的だと思うので。

世の中の雪崩に関する書籍も、雪氷学的なウェイトが大きめな本、行動判断にウェイトを置いた本、といろんなタイプが。

最近出た本だとこの辺が雪崩入門書。
前者は雪氷学的要素、後者は行動判断にウェイトが置かれた構成になってます。
どっちもいい本だけど、ずいぶんと雰囲気が違うんで読み比べてみると面白いです。

最後に、引用&関連資料をまとめて載せときます。

荒木健太郎,2018: 低気圧に伴う那須大雪時の表層雪崩発生に関わる降雪特性. 雪氷, 80, 131-147.
荒木健太郎,雲の微物理過程の研究
防災科学研究所による現地調査:概要版詳細版
日本雪崩ネットワークによる現地調査
衛星画像(可視):ひまわりリアルタイム@NICT
天気図:日々の天気図@気象庁

2つ玉低気圧は融雪の香り

今日(23日)の夕方に発表された暴風雪と高波に関する全般気象情報

中身のメインは「25~27日頃にかけて強い冬型になりますよ。特に北日本の人は気をつけてね!」といったところ。
ただ、雪山好きとしては見逃せない内容がもうひとつ。

それは「25日は低気圧に向かって暖かい空気が流れ込むから北日本でも雨が降って雪解けが進みますよ」ってこと。

現時点(23日夜)で作成されてる予想天気図は24日朝と25日朝。
24日朝に朝鮮半島の西側にある低気圧が25日にかけて発達しながら東進。
と同時に、本州の南側にも低気圧が発生&発達しながら東進。
日本海と本州南岸をそれぞれ低気圧が進む、通称“2つ玉低気圧”って状態になることが予想されてます。

低気圧に向かって暖かい空気が~ ってとこを見るには24日夜の予想天気図が欲しいとこだけど、無いのは仕方ないので高層天気図(数値予報資料)に落書き。

※高層天気図はHBC(北海道放送)さんや地球気さんから見ることができます。どのタイミングでどこに低気圧や前線が予想されるかは地球気さんに載ってる短期予報解説資料が参考になります。

で、これが24日夜の予想資料(FXFE50シリーズ)に低気圧(赤×)と前線を落書きしたもの。
ちょうど2つ玉低気圧状態になったところです。

今のところ南側の低気圧だけに前線を予想してるけど、日本海の低気圧もしっかり発達して前線的な構造は持つ見込み。
細かい解説はおいといて、エイヤと落書きを追加するとこんな感じになります。
赤&青点線が前線的なもの。紫矢印が暖気、水色矢印が寒気の流れ。
南北2段の低気圧でせっせと南の暖気を北に押し上げ、ぐいぐいと暖かい空気が日本海に流れ込む予想です。

じゃあ具体的にどのくらい暖かくなるのかを見るのには上空約1500m(850hPa)の予想気温が載ってるFXFE57シリーズがオススメ。

23日夜には本州にかかっていた0℃の線が・・・

24日夜には日本海中部~青森まで北上する予想!

温度線からざっくり読み取ると、北アルプスエリアでも標高1500mでプラス3℃くらい。
だいたい標高2000mくらいまでは雨かべちゃ雪、そんな気温になることがわかります。

こうして雪山にはベチャベチャな積雪層が形成され、そのまま強い冬型に突入してドカッと乾いた雪が載ることに。

そんな劇的な変化が雪山に襲い掛かる予想です。

今回の一連の現象が落ち着いたあと、美味しい斜面を滑る前にシビアな判断が必要な人はもちろん。
のんびりした斜面で散策を楽しむ人も、少し雪を掘ってみると雪の中に記録された気象の変化に出会えると思います。

気になるけど雪山行けないよ~な人は、日本雪崩ネットワークの積雪観察情報、SPINから現地の情報を覗くこともできます。
データを読み取るにはちょっと勉強が必要ですが・・・。

その辺は雪崩との付き合い方も含めて日本雪崩ネットワーク発刊の雪崩リスク軽減の手引きにイロハがまとまってるので興味のある人はぜひ。
できたてほやほやの改訂版が発売中です。

【読書感想文】雪崩教本 by 雪氷災害調査チーム&雪崩事故防止研究会

最近すっかり放置してたこちらのブログ。冬が始まってネタはいっぱいあるのにアウトプットがまったくもって間に合いってない!冬までに冬の気象をまとめたいとか思ってた時期がありました…。反省。

さて、久しぶりの話題は雪崩に関する新しい本が出たのでその感想です。

こちら、12月1日に発売されたばっかりの『雪崩教本』

“雪崩教本”と冠するだけあって、
1章 気象、雪、雪崩の科学的な話
2章 どう雪崩の危険性と付き合うか(リスクマネジメント)
3章 雪崩に巻き込まれたどうするか(レスキュー)
といった3段構えで、雪崩に対する知識を一通り網羅する内容になってます。

著者は日本雪氷学会北海道支部を母体とする雪氷災害調査チームと、雪崩に関する知識・対策の普及啓蒙をする任意団体の雪崩事故防止研究会
どちらも北海道に拠点を置く団体で、北海道の雪山を愛する人たちの集まり。
雪氷災害調査チームは2015年には山岳雪崩大全も刊行してます。

山岳雪崩大全は山岳大全シリーズらしくかなりの分厚さ!
内容もみっちり&結構マニアックなところもあって、雪山についてちょっと勉強してみようと軽い気持ちで最初に手を出すと挫折しかねない雰囲気を醸し出しています…。

そんな山岳雪崩大全から基礎&重要なところを抜き出してギュッと濃縮したのが今回の雪崩教本って雰囲気でした。
本の厚みは半分、お値段も半分と手を出しやすくなってるので山岳雪崩大全を手に取りかけて躊躇した人も雪崩教本ならきっといけるはず。
…とはいえ、あいかわらず結構マニアックな内容も含まれてるので、全部理解しようとはせず難しとこは流し読みでいいと思います。

ただ、全体的にいい本だな~とは思ったけど2章の雪崩リスクマネジメントのところはちょっと物足りなく感じたのが素直な感想。

雪崩について科学的な知識を持つのも大事だし、道具やレスキューも大事なんだけど、実際に雪山で行動する際に最も重要なのは『どう判断して、どう行動するか』ってとこじゃないかと。
本のボリュームの制約はあれど、もう少し詳しく記載してもよかったんじゃないかなぁ。

この辺の話は日本雪崩ネットワークが刊行した『雪崩リスク軽減の手引き』が詳しく載ってます。
ちょうど間もなく12月20日に増補改訂版が出るので雪崩教本と合わせて読むとバッチリかと。

あと、雪崩教本の最初には気象の話も載ってるけど、こちらもさすがに雪崩教本の内容だけでも心許ないところ。
気象の勉強もいきなり山岳気象大全みたいな重厚系に挑むんじゃなくて、まずは広く浅く日々の気象に親しむくらいの本にしておくのがいいと思います。
一般的な気象の知識を得て、プラスアルファとして山ならではの気象を学ぶってイメージで。

2011年とちょっと古いけど、気象入門には『史上最強カラー図解 プロが教える気象・天気図のすべてがわかる本』がぼくの好み。広く浅く、かつ系統だった内容でなかなかバランスいいです。

↑の本をひと通り読んで、実際の日々の天気の感じ方が変わった上で上級編の山岳気象大全に挑んでください。
高層天気図なんかも登場して気象予報士的な視点&知識も含まれるので、最初に読むとかなりの確率で挫折する気がします…。

2つの現地調査報告から見えるもの

3月27日の那須雪崩事故。

日本雪崩ネットワーク(以下、JAN JapanAvalancheNetworkの略)が行った現地調査の報告に続き、防災科学技術研究所(以下、防災科研)が行った現地調査の報告が今日(31日)公開されました。

さらっと積雪について見たい人は概要版を。
今回の事故を総合的に眺めるには気象現象の推移も載ってる詳細版のほうがオススメです。

あとはJANが30日に公開した、日本における近年(1991-2015)の雪崩死亡事故の資料も必読の品。
死者数、年齢、所属、活動別などの各種データが整理されてます。
メディアで叩かれることが多いのはスノーボーダーだけど、死者数で見ると 登山者>山スキー>>山スノーボード なのは意外と感じる人も多いんじゃないかなと。

話を現地調査に戻すけど、やってることそのものについてはJANと防災科研、どちらも同じような感じ。積雪構造を調べて雪崩が起きた仕組みを解明しようって取り組みです。

ただ、両者の雪崩防災に対するスタンスはちょっと違う。
それぞれのスタンスが見える言葉を上で紹介した資料から引き抜いてみます。

【JAN:雪崩死亡事故資料より】
雪崩安全に最も重要なのは、雪を調べることではなく、地形を賢く使うこと。
大きな事故は「雪崩地形と行動マネジメント」に問題を残す。
※別々に記載されてる2文です

【防災科研:現地調査報告詳細版より】
雪崩がどこで発生するのかを広域に把握する手法は確立されていないため、山岳域も含めた全国的な雪崩ハザードマップを整備することが必要である。

JANと防災科研がそれぞれの切り口で雪崩による被害を減らそうとしてることがよくわかります。JANは自助的、防災科研は公助的な雰囲気です。

雪崩に限らず防災を考えるにはどちらも大事だけど、少なくとも自分の意思で山に入っていく人は自分の判断と行動でリスクを避けるって意識は絶対に無くしちゃいけない。
災害が起きるとたびたび「(行政から)避難しろと言われなかった」なんて声も聞かれたりしますが、自然のド真ん中で頼れるのは自分自身だけなので。

最後に蛇足。
気象屋として防災科研の報告書に少しだけ補足を。

気になったのが、今回の大雪をアメダスデータから過去3シーズン&平年値と比べて、3月としては突出した大雪でしたって記載。

那須みたいに太平洋側に位置するエリアでは、ドカ雪になるのは冬型より南岸低気圧による事例の方が多い。
そして、毎年それなりに安定して雪を降らせる冬型とは違い、南岸低気圧による雪はシーズンごとのムラがとても大きい。

こういったムラのある現象、特にたまにしか起きないような現象は
『「0、1、0、10、1、0」の平均は2。10は平均の5倍も凄いです!』
といった感じになってしまい、平年値と比べることにあまり意味はありません。
これに似たパターンとして、(ゼロに近い)基準の何倍の○○が!と言って煽るのも一部の方々がよく使う手です…。

確かにアメダス那須高原の降雪ランキング(1989年~)でも8位に入るほどの値だったけど、もともとムラの大きい現象だってことは知っておいてください。
最近だと2010/4/17に38cmって記録もあります。

また、アメダス那須高原の標高は約750mで、事故現場との標高差は500m以上。これだけ標高差があるとアメダスでは大雨、山の上では大雪、なんてことも十分ありえます。
今回の大雪がどのくらいの頻度で起こるかって問いはなかなか難しいとこだけど、少なくとも山で出会って大騒ぎするような物ではなかったんじゃないかなと。

雪山ユーザーとなだれ注意報

那須の雪崩事故を受けての各所の動き。今回もお決まりの臭い物にはフタをしろ的な対応。予想通りとはいえ、登山者として見る限りなんとも変な方向に動いてる物が目立ちます…。

高校生を雪山から遠ざけたら確かに高校生の雪山事故は起きないかもしれない。そのかわり、正しく雪山を理解してない不完全な大学生登山者を量産することにならないか。

今本当に必要なのは、自然から離れることなんかじゃない。自然との上手な付き合い方をどう教えていくか。そして今回はなぜうまく伝えてあげれなかったを振り返ることじゃないでしょうか…。

そしてここにも見逃せない微妙な動きがひとつ。

「なだれ注意報」が発表されるなど、雪崩が発生するおそれがある場合には、住民や関係機関に伝達し迅速に注意を呼びかけることなどを求める通知を各都道府県に29日付けで出したことが報告され、再発防止策を徹底することを確認しました。

NHKニュースより

うーん…。

こういった動きはどうしようもないと諦めるとして、とりあえず個々の雪山好きの人にだけは伝えておきたい。
気象庁が発表する「なだれ注意報」について大事な2つのことを。

まず1つ。

なだれ注意報に限らず、気象庁が発表する注意報&警報が対象とするのは『人が日常的に活動するエリア』ってのが基本。スキー場を越えた先の山岳エリアのように『限られた人が活動するエリア』は対象外です。
このあたりを含めてしまうと山のまわりなんて常に強風注意報や濃霧注意報が出しっぱなしに。一般的な生活圏が対象、と表現すべきでしょうか。
街を離れ、自然のド真ん中に立ち入る登山やバックカントリーでは自分で危険性を判断するのが大前提です。

そして2つめ。

気象庁のなだれ注意報の基準は、だいたいどこの県でも
①まとまった雪が降ったとき
②雪が残ってて溶けやすいとき
の2本柱になってます。
たとえば栃木県の基準
①24時間降雪量が30cm以上
②積雪40cm以上で最高気温6度以上
の2つ。
前者が山で特に気になる降雪直後の表層雪崩、後者が融雪期の全層雪崩を意識した基準です。

そもそも雪は正確な積雪/降雪量の把握が難しい。さらには風や地形による局地性、気温や日射による変質、長時間にわたり積雪の中に潜む弱層などなど、正確に雪崩の危険性を把握するのは現地にいても難しい作業。
正直なとこ、今の気象庁の表層雪崩に対するなだれ注意報の運用は「まとまった雪が降ったらある程度の期間出す」程度のもの。まとまった雪の直後で危ないんだな、程度の参考にはなるけど、山における個々の行動判断の根拠にはなり得ません。

極論をいえば、斜面に雪がある時点で雪崩のリスクがゼロにはならない。その中でどのくらい危ないのか、どこを通ればより安全なのか、あるいは引き返すべきなのか。そういった細かな判断が必要なのが雪山です。

また、春になると峠では融雪期のなだれ注意報が長時間出続ける中で、標高の高い山ではまだまだ雪が降る季節、という状態にも。

こうした2つの理由から、雪崩事故における定番の質問(批判)である「なだれ注意報が出てたのになんで登ったか」は全くの的外れ。
よく分かってない人がトンチンカンなこと言ってるなぁと聞き流しちゃってください。

今回の事例ではビーコンを初めとした雪山装備がなかったのも問題ではあるけど、雪崩のリスク回避を徹底した講習会であればまだ納得できる話。

「目の前に一晩で積もった大量の雪という明確なリスクがあるのに、なぜ雪崩を考慮した判断&行動がとれなかったか」ってのが一番の問題です。

まだまだ高い山では冬と春の境目な季節。
GWになったって雪が降る世界です。
油断することなく、事故のない春山シーズンを楽しみましょ。

近くてホントに良い山、谷川岳

埼玉県から始発電車とバスを乗り継いでの谷川岳。先週の武尊山の苦労があったから、公共交通だけで9時にロープウェー乗り場につくありがたさが余計に身にしみる…。

さて、今日の谷川岳がとんなだったかというと「山と天気の神さま、ほんとありがとおぉぉぉ!」と山頂で叫びたくなる状況。
昨日降った雪のおかげでしっかり純白モード。
これを春の穏やかな陽気の中で見れる贅沢さに、ただただ感謝な1日でした。ほんと、冬に目の当たりにする自然の造形は凄まじいとしか言いようがないです…。

ただし、新雪に覆われてキレイになった下に潜む怪しい罠も多数。
雪庇ができるような稜線部には結構な数のクラックができてて、新雪で隠されてるもんだからハマってる人も結構いたっぽい。
ぼくは後発組だったからもう見えてたけど、先発組はかなり邪魔されたんじゃないだろか。
できるだけクラックの落ちる側は歩かないようにしたけど、仕方ないような場所は頼むから動くなよ~と祈りながらの通過でした。

それなのに!
明らかにクラックの先、雪庇先端部まで行って写真をとってる人も。
同じパーティーの仲間からそこはやめとけ、危ないからと言われても「大丈夫だって」との返事。そんな人にわざわざ声をかける気にもならず、頼むから目の前で落ちないでくれよと呟くのみ。
根拠のない「大丈夫」でリスクに突っ込む典型的な光景でした…。
雪もしまって暖かくなってどんどん気分は春だけど、危険を察知するセンサーのスイッチだけは切っちゃいかんと気持ちを引き締めるきっかけにはできたかなと。

あと、今日嬉しかったのは初めて生で動いてる雪崩を見れたこと!
谷を挟んで反対側の急傾斜の上端から崩れはじめ、大きくなりながら斜面下端の谷部まで到達。
春の全層雪崩だからあんまり早さはなかったけど、直に見れた&音を聞けたのはホントに嬉しかった。

ちょっと気になったのは、雪崩が届いた谷にはバックカントリーのトラックが複数あったってこと。
急傾斜のオープン斜面を滑り終えてベースに戻る消化試合みたいな箇所だけど、日差しをもろに浴びる南面はまだいくらでも崩れそうなとこはあったから上方斜面からの雪崩には本当にご注意を…。

たぶん、ちゃんと雪山な山に登るのは今シーズンはこれでおしまい。
冬に感謝しつつ、春モードに切り替えていこうと思います。

さらば冬よ。また来年よろしく!

20160326武尊山

ほとんど雪山で遊べなかった今シーズン。
このままでは終われない!ってことで冬納めに行ってきました。
冬山としては5年ぶりに登る武尊山(ほたかやま)2158m。
春スキーで賑わう川場スキー場のリフトを使ってのアクセスです。
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暖冬&3月末ってことで雪の量自体は少なかったけど、3/24~25の寒気で10~20cmくらいは積もってたおかげで景色はバッチリ!
青空と白銀の織りなす絶景を存分に味わうステキな山歩きでした♪
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この日は、日本海側は冬型の名残り、本州の南側は低気圧の雲が広がってたけど関東北部は狙い通り晴天域。
条件がいい日を狙ったかいがあるってもんです。
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移動性高気圧に覆われて好天&弱風のなか登れるのは春ならでは。
ただし、融解&凍結によるザラメ化やクラスト化した旧雪と、寒気の戻りで降る新雪の間で差が雪質の差が大きいのもこの季節の特徴。
新&旧雪の結合が露骨に悪かった上越エリアのシャルマン火打スキー場ではこんな状態に…。

武尊山の南西にあるピーク、剣が峰山の東斜面でも小さな雪崩が。
スキー場内の登山届記入コーナーには「雪崩の危険があるため巻き道禁止」と注意事項があるんで、雪がもう少し減るまで待ったほうがいいかと。
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また、雪庇のある稜線にはクラック多数。
性質の悪いことに新雪で覆われてたせいでパッと見わからないけど踏み抜いた跡がいっぱいこと。
実際、ぼくの目の前でもひとり見事にハマってました…。
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片足がハマるくらいなら笑い話で済むけど、完全に落ちたり崩壊したもんなら命に関わる話。
厳冬期よりはつい気がゆるみがちな春の雪山。
足元には十分ご注意を。